りょう

ソフト/クワイエットのりょうのレビュー・感想・評価

ソフト/クワイエット(2022年製作の映画)
4.0
 こんな描写を全編ワンショットで撮影したことには感服するし、臨場感がハンパないです。ただ、物語そのものにインパクトがありすぎて、苦労したであろう長回しに関心が向きませんでした。
 このポスタービジュアルなので、レイシストたちが身勝手で独善的な主張を展開して罵りあう物語だと思っていました。そのロジックがどんなものか興味がありましたが、白人至上主義の思想や多文化主義を否定する論拠は薄っぺらで、とても低能な愚痴話のレベルです。
 そもそも人種差別の傾向は、生物学的な本能が“群れ”を過剰に意識させることで誘発されるのかもしれません。レイシストたちは、近代文明や人文学を獲得した人類からドロップアウトしているので、その多様性を理解できないのでしょう。
 したがって、最終的には暴力で物事を解決する傾向もあります。アパルトヘイト、ナチズム、シオニズム…、現在のイスラエルでジェノサイドが激化していることが象徴的です。
 彼女たちの言動もその法則に沿ったものなので、必然の帰結だったのでしょう。まったく知性のかけらも感じさせない暴力は、とてもしんどい光景ですが、映画の描写としては単純すぎて興醒めでした。もっと人種差別の複雑さや根深さを問題提起するような展開を期待しました。これでは“彼女たちがバカなだけ”で思考停止してしまいます。
 とても共感できる要素はありませんでしたが、何かの心理テストに利用できそうだし、映画としてはとてもよくできた秀作です。
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