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658km、陽子の旅のmasayaのレビュー・感想・評価

658km、陽子の旅(2023年製作の映画)
4.1
故郷を捨ててから二十年。何者にもなれないまま無為に生きる陽子の元に、疎遠だった父の訃報が届く。もう一度会いたい。出棺は近い。寄る辺もない帰郷の旅が始まる。
時は癒しもするが、取り返しもつかなくさせる。彼女は間に合うのか。彼女と同じ時を生きた僕たちはどうか。


普通に会話できるだけで難なく切り抜けられたかも知れないつまずき。コミュ障にはとても辛い、心が痛む描写が続く。人と向き合う努力をしてこなかったツケかも知れない。でも、ここまで痛めつけられるまでのことだろうか。彼女が向き合うのはいつも記憶の中の父親だ。だけど、死者は言葉を持たない。

訳あって移動手段にヒッチハイクを選ばなくてはならなくなってから物語は動き出す。他人の懐に入り込むような行為だからこそ、人の本心、本性に曝されることになる。善意と悪意は完全に分たれてる訳ではないことを知る。会話を避けて、主張しないでいるうちに奪われていく仕組みがあることが示される。

氷河期世代・独身・一人暮らしの引きこもり女性という寄る辺無い立場。菊地凛子さんが見事に演じた彼女の視点を通すことで、社会の調和が欺瞞に満ちたものであることを認めざるを得なくなる。休日の賑わうサービスエリアも絆を謳う被災地報道も、全く違う姿に見えてくる
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