ヘクトール

君たちはどう生きるかのヘクトールのレビュー・感想・評価

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
4.1
公開直後になんの情報も入れずに映画を観た後、かなり経って海外向けに公開された予告を英語吹き替えで見てみた。
すると、情報の波が次々と押し寄せてくる大海とも言えるこの映画のシンボリックな表現を、(初見時予告が存在していなかったという点で)なんの既視感も持ち合わせず、ただ身を任せるように体験できたこと、そのことが何よりの幸福であったのだと気づいた。
そしてその情報の波の押し寄せる大海がもたらすのは、インターネット的な情報の洪水ではなくて、山積みになった本から溢れ出てきた情報の洪水のようだと思った。(そこに積み上げられている本として想像するのは、小学生の頃、図書館で借りた岩波少年文庫をはじめとした、想像力を豊かに掻き立てる児童文学の数々)
わたしがこの映画から受け取ったのは、「積み上げられた本を読み、自分で想像し、自分で考えることの尊さ」。
そのように考えたのはこの映画が「山積みになった本から溢れ出てきた情報の洪水」の様に想像できたことに加え、この映画の指し示す先がわたしには不可解に、正直、何もわからなかったからなのだ。
ただシンボリックに、絵が動き、絵が喋り、絵が羽を広げ飛び立つのを目の当たりにして、考えることよりも感じることに集中していた。そして映画を観た後は、これが意味するのはなんだったのだろうと、「わからない」感情にモヤモヤを抱かされていた。
ただ、だからと言ってこの映画が嫌いだというわけではない。
むしろ「わからない」という結果に抱かされる心地よさというのも存在している。
答えはそこになく、答えは自分で探り出すものなのだ。
最大限ポジティブな言い方をするのだとすれば、わたしとこの映画の繋がりはそのように言い表せる。
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