不乱苦

ひとくず 新ディレクターズカットの不乱苦のレビュー・感想・評価

5.0
信頼する友人に勧められてプライムビデオで鑑賞。

虐待を受ける少女が、偶然空き巣に入ったゴロツキと心を通わせ、不器用ながら疑似家族を作ろうともがくお話。このあらすじだけでも大変見事だが、ヒリついた演技とドロっとした映像が凄みに拍車をかける。監督が務める主人公・金田はもちろん、脇を固める俳優陣もみな存在感があり、記憶に焼き付くような表情を見せている。

子供が辛い目に遭うシーンが続く前半は目を覆いたくなるが、徐々に少女・鞠が解放されていくにつれてじんわりと温かみが広がってくる。要所要所にユーモアも交え、後半で何度も目頭が熱くなるのは虐待の痛みによるものではなく、虐待によってうまく生きていけなかったものたちの間に生まれる愛や絆に対してである。

本作は、児童虐待の過酷な実態を知った監督が、そんな子供たちに目を向け、救いとなるようにと作った作品だそうだ。だからと言って説教くさくならず、王道の娯楽作品として楽しめるように、しっかりと完成されている。一方で、虐待するものを悪として描くだけの型通りの語り口ではなく、児童虐待に潜む問題の複雑さを、二世代の虐待や社会的な立場、男女の違いなどを絡ませて、決して明快な結論でお茶を濁さず観客に問題を投げかけるように描いている。鑑賞後、爽やかな救いとともに、じんわりと来る余韻と、この問題に、社会はどう手を差し伸べるべきなのか、と考えさせるところに、監督が作品に込めた誠実で温かい想いが感じられる。

以下、赤井英和が本作に寄せたコメントを引用させていただく。わたしが作品を見ながら思っていたことが見事に言語化されていた。
「子供は世界の宝や、守らなあかん。けど、優ししたらなあかんの、子供だけやない、みんなや。
大人かて、優しされたら、優しなんで。
いっぺんミスしたら、もう誰も許してくれへんの?
見えてへんかったけど、すぐ近くで、助けを求めること知らん人、助けを求められへん人、許してもらわれへん人、ワシは優しくなれるんか、許せるんか、、。
上西監督、ワシ、今、ごっつい考えてますわ。」
不乱苦

不乱苦