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ザ・キラーのA8のネタバレレビュー・内容・結末

ザ・キラー(2023年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

冷徹で感情を極限まで無くした暗殺者は、ある仕事の失敗の代償としてパートナーを滅多打ちにされる。そんな彼はその復讐、そして自分のプライドのようなものに動かされターゲットを躊躇なく狙っていく。

感情を極限まで無くしたようなこの主人公が、感情に動かされ計画を実行していくというその“矛盾”が上手くコントラストとなり、主人公の人間的な側面とプロの殺し屋としての冷徹さを上手く表していた。

“冷徹”な部分の描き方は特に圧巻であり、ほぼ言葉を発さず表情筋すら動かない見た目から冷静に素早く対処する完璧な行動、色彩の暗さ、、一見誰もが想像つく“暗殺者”の世界観なのだが、デビットフィンチャーの手にかかれば不思議と彼の作品だと思わせる独自性が細かなところに散りばめられていることが素晴らしかった。特に、拘束バンドで助けを求める彼女の顔ではなくその“手”を焦点に当てるところは印象的。

マイケルファスベンダーももちろん良いのだが、ティルダスウィントンはかなり印象に残った。彼女は一つのシーンのみの登場なのだが、1番重要と言ってもいいほど重厚感あるモノになった。銃を突きつけられ死が目の前にあるその恐怖と争いたい気持ち、それを隠そうと冷静を装ういや、冷静に対処しようとする姿、、相反する気持ちが上手いほど伝わった。マイケルファスベンダー×ティルダスウィントンの掛け合いは他の場面と一線を画す形となった。
お気に入りは、ティルダスウィントンが、マイケルファスベンダーの状況を熊と狩猟に例えて話す場面。なかなかうまい暗示であり、それを契機に何か巻き起こる気配を感じさせた。

平穏な生活を送ろうとすることは、負の連鎖が続くきっかけとなる。彼女とともにビーチでの転ぶシーン、普通の平穏な生活と見せかけて、カメラアングルがぐるっとまわり、マイケルのサングラスの隙間から顔を見ると目がぱっちり開いており、殺し屋の平穏など来ることはないのかもしれない、、と思わせるほどであった。

暗殺者として無機質な存在だと自分に言い聞かせながらも、暗殺者ではなく自分の復讐のために人を殺していっている。その暗示がティルダスウィントンが話した熊と狩猟の関係性にうまく表現されたところがかなりお気に入り。もはやティルダスウィントン作品と言ってもいいくらい素晴らしかったし、ファンになりそうなほど。
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