シミステツ

アンダーカレントのシミステツのネタバレレビュー・内容・結末

アンダーカレント(2023年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

人は表出する部分だけでは、その人となりの本質や全体像を推し量ることはできない。顔を見て、話をして、その言葉や表情、温度からその人のことを理解することはできるが、それが正しいその人だということは断定できない。自分の前だからこそ話してくれていること、話せないだろうこと、見せられる顔、見せられない顔があったりする。

ああ、この人の前では上手く自分を出せてないなということもあるし、きっと自分が思っていない風に思われてしまっているなとか、本当はもっとこんな良いところがあって知ってほしいと思いつつも、知られぬままにその人との関係が途絶えてしまったり。それはもちろん逆も然りで、ある種のタグ付けを通して、また限定的なペルソナを介して人は交じり合い、導かれ、そして離れていく。

人にはそれぞれのアンダーカレントな部分は絶対にある。山崎が言っていたように自分でもよく分からない自分というようなこともある。

『アンダーカレント』の素敵なところは、かなえと悟を通してその人自身の内面の深さの部分に迫りながら、堀を通して時間軸の広がり、つまり人はどこかでつながっていたり、影響し合っていたり、思いを馳せるなどの交わりなど、もあるというのが描かれているということ。ある種の縦軸と横軸の深さのようなものから人間の「分からなさ」というものが理解できる。

共感が溢れかえっている現代で、人は安易に共感したり、その人を理解したつもりに、寄り添ったつもりになるし、勝手に期待したりもするけど、そもそも人は分かり合えないんだという前提に立脚することがきっと大事なんだと思う。

最後の堀が、自分の妹はさなえだと吐露するシーン、原作にはなく、上手く言葉にはできないけれど、想像の余地=アンダーカレントも残しつつこのシーンを新しく作ってくれてうれしく思った。きっとぼくもどこかで堀に言ってほしかった言葉なんだと思う。

本作でも今泉監督らしい画作りや世界観もありつつ、きちんと漫画のコマ割りに準じて画作りした部分も見受けられて、そこのバランスをうまくとりながらシーンを切り替えているようなところもあり、そんな新しい、今泉監督のアンダーカレントな部分も見せてくれた印象がありました。

細野晴臣の音楽も全体を通してとてもよかったです。ちょっと不協和的で不安定だけど、どこか胎内記憶にもあるような、自分の中にきっとあるような音というか、そんな揺らぎを感じられる音楽でした。