Hiro

アンダーカレントのHiroのレビュー・感想・評価

アンダーカレント(2023年製作の映画)
4.2
「アンダーカレント」
人を分かるって、どういうことですか。

あぁ、すごい。この作品は。好みが分かれるとか最早そんなレベルでは無い。この映画があることで救われる人がいる。

基本1人でも生きていけてしまう私達は、どうして他人と一緒に居ることを選ぶんだろう。そうしてそんな人の心を、誰かと一緒に居たいと思ってしまうその弱さを、弄ぶ人もいる。相手が望むような言葉を与えて、望むような自分で居れば、誰にも自分の心の内は悟られずに済む。

「言葉がコミュニケーションの為に生まれたなら、こんなにもすれ違いが起こるはずはない」という言葉を思い出しました。
言えない言葉がある、飲み込んだ言葉がある。それと同じように、言えてしまう言葉も吐き出してしまえる言葉もある。彼らがこの映画の中で語った事よりも、語らなかった事の方が大切な気がしてしまう。

井浦新さん、個人的に凄く好きな俳優の1人なんですが、今回もやっぱり凄かった…。序盤から終盤にかけての変化、そして最後の告白。今回も流石すぎました。

結局、人が完全に分かりあう事など不可能だと思う。かなえの夫がそうであったように、心の内など誰にも見せずに生きていくことは容易い。そうした方が傷付かないし。
けれども、最後のシーン。
かなえの後ろを歩く、堀の姿。あのシーンにこそ人間関係の何たるかが詰まっていると言ってはいけないか。

彼らのように同じ傷を、闇を共有していなくとも、少しだけその深淵に触れる事ができたなら、自分の闇を相手に少しだけでも見せて良いと思えたのなら、それは「分かりあう」ことだと言えるんじゃないかな。

今泉監督らしからぬと言ってはあれですけども、深く深く潜り込んでいくような映画でした。
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