よどるふ

パスト ライブス/再会のよどるふのレビュー・感想・評価

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
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映画の冒頭、3人の人物がバーのカウンターで飲んでいる。すると、その様子を少し離れた位置から見ていると思しき他のバーの客が、3人の関係性について想像を膨らませて語っている会話が聞こえてくる。その想像が当たっているのかは分からない。映画はまだ始まったばかりだからだ。そんな「他者を関係性で見る」視線をスクリーンの向こう側にいる人物たちに向けていると、3人の人物のうちの1人が、顔に笑みを湛えながらこちらに視線を向けてくる。思わずドキリとした。その一瞬で“笑みの向こう側”には何があるのかを無性に知りたくなってしまったのだ。

作中人物の自己言及的なセリフ、そして本作の着地の仕方を見れば分かるように、恋愛映画におけるある種のストーリーラインに対するカウンターとなっている作品である。こと“ドラマチックな恋愛”と言われる作品の中にある「最初からそう決まっていたのならそれには何者も逆らえない」という絶対的な力、“運命”。そんな“運命的な”出会いと再会を描きながら、“運命”がもたらすドラマチックさとは距離を置く関係性が描かれているのが本作。意図的に用意されたドラマチックなセリフに対し、ドラマチックさを重ねるのではなく、あくまで現実的なセリフで返すことで、既存の作品とは異なる成熟した印象を受ける。

いちばん好きだったのは、妻が連れてきた妻の幼馴染を家で迎えた夫が見せた笑顔かな。むちゃくちゃ愛想良く迎えるわけでもなかったけれど、ぎこちなさを感じるまでら行かないという絶妙なライン。あのシーン以降を演出する上で、例えばいくらでも空気をピリつかせることだってできるし、無用に甘い雰囲気を醸し出すことだってできたと思うけれど、それをしない制御力があった。そこに大人らしさを感じたな。
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