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夜明けのすべてのmuのネタバレレビュー・内容・結末

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

普通に見える人も、ちょっと変わって見える人も、実は何かを抱えて生きているかもしれない社会。主人公たちはPMS、パニック障害。そんな2人に優しく接する栗田科学の社長や山添くんの元上司も、実は家族を亡くしてグリーフケアに参加している。
PMSが原因で失敗を繰り返してしまう藤沢さんは、冒頭で症状や治療の制約が語られることで観客は理解できるが、同性にもPMSを打ち明けられず周囲には理解されない様子が描かれる。山添くんも最初はやる気のない若手と勘違いされてしまうが、劇中でパニック障害について「電車もバスも乗れない。歩ける範囲が自分の世界。生きているのが辛い。でも死にたくない。」と紹介されると見方が変わる。症状だけでなく、周囲の理解を得ることの難しさ・病気と生きていくことの大変さが伝わってくる。

一番印象的だったのは、山添くんが忘れ物を届けるシーン。会社の作業着を着て、陽の光に照らされながら、藤沢さんにもらった自転車で向かう姿には"前進"する様子が詰まっていた。藤沢さんからお礼のメッセージを受け取ったであろう表情も、二人の関係性を思うと微笑ましい。
また、山添くんが数十年前に亡くなった社長の弟の肉声を聞いて今の仕事に向き合っていったり、弟の手記がプラネタリウムにいる人たちを励ます様子も、何百光年前の光が今地上に届いている星のようで上手く描かれているなと感じた。

優しい言葉選び、精緻な演出、時折り交じるユーモアに加えて、なかなか治らない病気を映画的展開で簡単に克服させず"共生"していくストーリーは、とても自然で好印象だった。自分が悩んでいるからこそ、誰かの心を救えるかもしれない。みんなが少しずつこんな風に優しくなれたなら。人に優しくなりたい時に何度も観たくなる映画。
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