みや

夜明けのすべてのみやのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
5.0
最初に泣いてしまったのは、ずっとカーディガン姿だった山添が栗田科学というジャンパーを羽織った場面。
そして、涙が止まらなくなったのは、渋川清彦演じる山添の元上司が、山添の言葉を聞いて顔を歪ませるカフェでの場面。元部下が自分の居場所を見つけたことを泣いて喜んでくれる元上司って…。
自分でも「疲れてたんかなぁ」とも思うが、信じられないくらい泣けた。

「ケアすることはケアされること」とは言われるが、映画に登場する誰もが、そんな風に大上段に構えて誰かをケアしてはいない。
むしろ、ケアしたかったのに、それに気がつけずに今も悔いを残している人たちが登場する。
発作に苦しむ藤沢や山添に対して、彼らの振る舞い方の自然さに救われる。
そして、藤沢や山添を面倒くさがる奴らも、勝手にアウティングする輩も出てこないことがありがたい。実際の世界の中には、そうした行為をする者も山ほどいるだろうが、そんな行動はいずれ消え去るべきもので、この映画の中では雑音にしかならないので必要ない。そのきっぱりとした演出がいい。
栗田科学のような会社のあり方は、本当に理想的だなぁとしみじみ思うが、それも、弟の自死を経験している社長の「日常的に人を大切にする振る舞い」が社員をそうさせているのだろう。
(栗田科学には「人にやさしく 自分にもやさしく」というポスターが貼られていることも確認。社訓も「想像する心 創造する力」で、なるほどと思わされる)

それにつけても、「知る」ことの大事さもよく伝わってきた。藤沢も山添も、互いの病気について知ったことで、わずかでも相手を助けられるようになり、ひいては、それぞれ自分の病気とも向き合えるようになったのだと思う。
山添が自転車を漕ぎ出す場面、そして、日陰の登り坂で自転車を降りて押す場面を見て、自分の病気との向き合い方を身につけてきたんだなあと感慨深かった。(ママチャリに追い抜かされても穏やかな山添、ナイス!)
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