あなぐらむ

弾痕のあなぐらむのレビュー・感想・評価

弾痕(1969年製作の映画)
3.8
加山雄三が「狙撃」に続き主演したハードアクション。
東宝ニューアクションに属する作品で、脚本は同じく永原秀一だが、監督がわりと東宝本流の森谷司郎になって、コンパクトだった「狙撃」(堀川弘通)より尺も長く、スパイ役の岸田森の拷問の件り等暗鬱な演出が続き(また岸田さんがすげぇ演技なんだわ)、加えて主人公の日系アメリカ人工作員という設定(彼にとって、基地のフェンスの向こうとこちら、どちらにもアイデンティティがあると述懐する所など)に、恐らく1969年という反米的な時代の空気と、森谷の反体制(ここでは戦後日本政治)な意志が絡んで、どうにも重い作品になった。銃器とアクション描写は変わらず素晴らしい。さくっと自動拳銃の残弾を確認するシーンなんかカッコいい。

キャストでは毎度な感じでインテリジェンスを感じさせる岡田英次のほか、佐藤慶が寡黙な中国人諜報員を演じて印象に残るほか、ヒロイン太地喜和子(1967年に日活「花を喰う蟲」もある)の若くて新劇っぽい発声芝居が新鮮。原知佐子はチャイニーズ役(いや、「戦場のなでしこ」は潜入してただけか)が多いな。

観念的な台詞が多いのは「狙撃」でカミュを引用して見せた永原秀一の若い感性の一旦を垣間見せる。クライマックスの銃撃ではマシンガンの弾倉をテープで括り、つけ換えるという凝った演出も見られる。
音楽も武満徹でちょっとATGっぽさも感じられる作品ではあるが、そこも時代の空気感として貴重か。
有楽町ビルヂングも見られます。当時と今とあんま変わってないのが凄い。

撮影の斎藤孝雄は「椿三十郎」、「ニッポン無責任時代」など、東宝におけるキーになる作品を撮られている。森谷司郎とは監督デビューから伴走、「兄貴の恋人」「赤頭巾ちゃん気をつけて」などがある。硬質な映像は東宝カメラマンらしく、作品を締めている。