りょう

カンダハル 突破せよのりょうのレビュー・感想・評価

カンダハル 突破せよ(2023年製作の映画)
3.4
 主人公のトムがMI6から派遣されたCIA工作員という属性から複雑で、すでにアメリカに移住しているアフガニスタン人通訳であるモー、イラン革命防衛隊、ISI(パキスタン軍統合情報局)、タリバン、アフガニスタン特殊部隊、その他の軍閥…など、すべてを把握できないほどの組織が次々に登場して混乱させられます。しかも中東の登場人物の顔立ちが似ているので、「どこの誰だっけ?」ってなります。
 みんながトムを狙っているという理解だけで観ましたが、それでも大丈夫なほど、物語そのものには奥深いものがありません。トムとモーの家族の設定もありますが、あまり本筋には影響ありませんでした。中東の軍事作戦に参加した主人公が現地の通訳と逃亡するという設定では、ガイ・リッチーの「コヴェナント/約束の救出」が格段に上質な作品です。
 かなりテンポよく、それなりに面白い展開ですが、冒頭のシークエンスが驚愕すぎて、トムの逃亡をまったく応援できません。CIAの内部告発で表現されていたとおり、仮にイランの核開発をめぐる攻防があるとしても、他国の核施設をスパイ活動で爆破するなんて、国際法違反の犯罪行為でしかありません。犠牲になった核施設の従業員には民間人も含まれているはずです。終盤の空爆でトムの追手が一掃されるシーンも「さすがにそれは残酷すぎる…」という印象でした。
 中東の登場人物にもちゃんとキャラクターが設定されているところは好印象でしたが、物語の展開を決定づける要素は、欧米の圧倒的な軍事力を背景した横柄な振舞いでしかありません。中東紛争をめぐる複雑な事情を描いていながら、アクション映画の表現を優先するあまり、とても中途半端な印象になってしまったことが残念です。
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