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碁盤斬りのnetfilmsのレビュー・感想・評価

碁盤斬り(2024年製作の映画)
4.2
 いや〜これは素晴らしかった。先週の『鬼平犯科帳 血闘』に引き続き、何か時代劇復権の予感すらある。原作はどうやら『柳田格之進』という古典落語のようで、今どき珍しい清廉潔白さが令和の時代に響く。浪人・柳田格之進(草彅剛)は身に覚えのない罪を着せられ、妻も喪った上、故郷の彦根藩を追われて娘の絹(清原果耶)とふたり、江戸の貧乏長屋で慎ましく暮らしている。いわば「訳アリ」の侍だが、いかにも山中貞雄の『人情紙風船』のような貧乏な長屋暮らしで、大家さんがしばらく貯まっている家賃を取りに来れば、すぐに用意するからと思い腰を上げるのだ。どこまでも質素な父娘の2人暮らし。気のおける友人は吉原で女郎屋を営むお庚(小泉今日子)で、清濁併せ呑む苦労人の2人は妙にウマが合う。しかしその小さな輪は萬屋のケチ兵衛こと源兵衛(國村隼)と出会うことで大きな輪となって行く。時代劇と碁というマッチングは極めて新鮮に映る。正に柳田格之進と源兵衛とは囲碁を通じてコミュニケーションを取って行く。どうやら碁には綺麗な碁というものがあるらしく、源兵衛は研ぎ澄まされた柳田格之進の打ち筋から、彼の性格やこれまでの業まで読み取るのだ。

 今作はある種、草彅剛が演じた柳田格之進という人物の底知れぬ業のようなものがひたすら魅力的だ。その裏には武士としての誇りを持ちながら、骨董や食器、絵にも精通し、物事の真贋がわかる人物として描かれる。然し乍らその内情は非常に不器用で、その日生きていくお金にも困るほどの働き下手で、結婚適齢期に差し掛かるお絹をひたすら心配させる。そんな不器用で一本気な男にある一つの嫌疑がかかり、主人公は怒りの感情を露わにする。正に怒髪天を衝くような心境だろう。元来、時代劇は時代ものであるという点で西部劇とも親和性が高いわけだが、彼は50両もの借金のかたに最愛の娘を、女郎屋のお庚と賭けることになる。全ては大晦の夜までにお金を工面出来なければ、情け容赦なくお絹を女郎屋で売り飛ばすと言うのだ。キャストのことをアンサンブルなどと形容する人もいるが、とにかく一人一人の俳優陣が各キャラクターにビタっと嵌まる様は、見事と呼ぶ他ない。國村隼の芝居の巧さと安定感も凄いが、私は柳田格之進の心友で女郎屋のお庚を演じた小泉今日子の佇まいにしてやられた。正に聖母のような圧倒的な存在感である。敵役を演じた斎藤工もお見事だったし、仲介人を演じた市村正親も若干声色に不安はあったが、総じて強いインパクトを残す。何より初めて時代劇を監督した白石和彌の手腕が実に見事で、時代劇にも強い爪痕を残す。
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