本公演のあった89年4月、私は高1。
その頃中森明菜の人気には陰りが出始めていたように思う。
事実、某男性アイドルとの破局とショッキングだった自殺未遂事件以降テレビで観る機会も少なくなっていったし(歌番組が激減する時代でもあったが)、高校生の私はデビュー間もないドリカムの歌唱に驚き、B’Zやユニコーン、プリプリ等のバンドブームを実体験する事になる。ユーミンが爆売れし、槇原敬之やKAN、フリッパーズギター、たま、BBクイーンズから何から何から新しいアーティストが出るわ出るわのバブル時代。
このように松田聖子をはじめアイドル時代を席巻した80年代最後の中森明菜に特別な思い出はなかったが、こうして現代の技術によって4Kリマスター処理が施された本作を鑑賞すれば、やはり「本物は本物だ」という当然の感想しか出てこない。
シングル発売曲のみ23曲を熱唱する中森明菜の圧倒的な迫力と存在感。まだ当時23歳であったにも拘らず、これだけ多くの人を魅了してきた彼女の偉大さを痛感したし、結果論だが、その後心身の病に侵され人前に出れなくなった意味が分かったような気がする。そう、本公演で彼女は燃え尽きているのだ。そう感じるくらい鬼気迫るものがある。
この歳になったからこそ、当時の中森明菜を新たな視点で捉える事が出来、改めて”歌姫”と称された意味が大変遅ればせながら真に理解した。
家内と高校生の末娘と鑑賞。30数年前の高校生と現在の高校生が並んで鑑賞という不思議さも伴い、時空を超えて沢山の感動を与えてくれた中森明菜と、本作上映を決定してくれた関係各位に感謝以外の言葉が見当たらない。