柿トマト

ミッシングの柿トマトのレビュー・感想・評価

ミッシング(2024年製作の映画)
3.0
娘・美羽の失踪事件から3ヶ月。母・沙織里(石原さとみ)と夫・豊(青木崇高)はビラを配り続けるなど地道な活動を続けるが、その努力も虚しく世間からの関心も薄れつつあることに恐怖を抱いてる夫婦だ。事件を扱ってくれるマスコミも今では地元のテレビ局の記者・砂田(中村倫也)のみとなんとも希望が見えない。

この作品はそんな残された家族とそれを追う記者、2者の側面から物語は進んでいく。

結論から言うと「役者陣の演技は素晴らしい」の一言に尽きる、特に主演の石原さとみが。彼女自身が語っていたが、𠮷田恵輔監督に7年も出演オファーを送り続けて、やっと実現したこの企画。失踪した娘にもう一度会いたくて奮闘する……といえば聞こえがいいが半ば「暴走」してしまう母親像というのを、思い入れたっぷりに演じ切っている。

具体的な暴走描写としては、テレビ出演したのにも関わらず、思うような情報提供を得られないと、砂田に八つ当たりする。SNSで「娘を見た」という怪しい情報提供者のイタズラにまんまと引っかかる。騙されていること、ネットの情報を信じるなと豊に諭されるも逆にキレ散らかす……など、こちらから見たらかなり「イタい」という感情を沸かずにはいられない人間だ。正直、自分が旦那の立場なら手を出してると思う。

しかし、中盤テレビ局のロングインタビューの場面で、嫌いだったこのキャラクターの表情が一転する。結構な長回しで沙織里が美羽への思いを口にするシーンでは演出の力があってか、かなりの映画的な”惹きつけるもの”を感じざるを得なかった。娘が壁に落書きをして、それをものを置いて隠したささやかな思い出。失踪当日、娘より自分のことを優先してしまった罪悪感など、口からポロポロと語る長回し。この映画の白眉だ。これがやりたくて石原さとみがオファーし続けたのが分かるというもの。本当に渾身の出来と言わざるを得ない。

ただこの作品、このインタビューあたりから雲行きが怪しくなってくる。具体的には避けるが、この作品の核心「マスコミの報道姿勢」「繰り広げられるSNSでの誹謗中傷」という問題提起の結末がいささかヌルく感じた。こういう社会性のあるテーマならもっと深く描きようがあるのではないかという疑問が拭いきれない。あの結論は自分の肌には少し合わなかった。

もちろん「こういう終わり方の方が良い」という方もおられると思うので、そこは好みの問題か。そこまで不誠実な映画ではないことは一応の擁護としておきたい。

もう少し擁護するなら、昨今の映画事情からしても評価できる。アニメか、続編モノぐらいしか超特大ヒットを出すことができない現状、こういう社会的に意義のある作品=俗にいう「考えさせる」タイプの作品を世に出す、しかも人気俳優を使って全国一斉公開することには大賛成だ。この点だけでも、映画「ミッシング」が多くの人に見てもらえるようにと願っている。
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