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ミッシングのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ミッシング(2024年製作の映画)
4.0
 とある街で幼女の失踪事件が起きる。あらゆる手を尽くしても見つからないまま、3カ月が過ぎる。母・沙織里(石原さとみ)は娘・美羽(有田麗未)の帰りを待ち続けていたが、少しずつ世間の関心が薄れていくことに焦り、夫・豊(青木崇高)とマスコミに向けて働きかけて行く。今作は日本という国家の中で、次第に孤独に陥って行く母親の焦燥を炙り出す。当初はニュースの鮮度もあり、マスコミや大衆の関心もあるが、衆目を引くニュースはそれこそ無数にあり、少しずつ忘れ去られて行くのはある意味仕方ない運命でもある。お腹を痛めて生んだ子供を攫われてしまう母親の焦燥はいかばかりか?マスコミに訴えかければかけるほど、優れた情報提供はあるように見えて、両親は言われもない誹謗中傷に晒されて行く。美羽が行方不明になる前、最後に会った人物として弟の圭吾にも嫌疑がかけられるのだが、失礼ながら弟役を演じた森優作という俳優は今作を観るまで知らなかったのだが、妙にリアルな演技に魅了される。社会の底辺には、このようにコミュニケーション不全を起こす人間もいるはずだ。然しながらマスコミや大衆の目にとって、彼のような人物は格好の餌となる。

 今作は徐々に先進国から転落して行く我が国の病巣の一端が垣間見える。一言で言えばその状態は極めて「機能不全」にも近い。マスコミにとっては視聴率が取れるニュースだけが求められ、両親の孤独など意に介さない。一方で警察側(柳憂怜)の対応も極めて公務員的で頼りない。インターネットにおける炎上案件は放っておいたところで皮肉にも燃え続ける。5chの反応を見るなという夫の声を無視し、お腹を痛め愛娘を生んだ母親は日夜貼り付いて視聴者の声を拾ってしまい、悪意の第三者の何気ない一言に傷付き、心が疲れ果てて行く。石原さとみの演技は率直に言って苦手で、これまでは綾瀬はるかと共に、ホリプロのシンデレラというかお飾りの印象しかなかった。然しながら本人が石原さとみのパプリック・イメージに飽きたというように、今作ではこわれ行く女を溌溂と演じている。幼い娘を誘拐された母親は平常心でなどはいられない。時にヒステリックに、時にパンキッシュになりながら、社会の傍流で抗って行く。その姿は正に情緒不安定で、周囲の人間(特に夫役の青木崇高)も大変だなと思うのだが、当の本人は意に介さない。それは彼女が母親となった経験にも起因するはずだ。当初は刺々しく暴れるだけだった彼女の情緒不安定さが、第二の誘拐事件を前に次第にまろやかに優しい母の姿になって行く辺りが印象的だ。結局物事は解決せず、様々なイシューは判然としないまま留まる。然しながら沙織里の表情が「機能不全」から何らかの回復を果たすまでの成長は必見と呼ぶ他ない。
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