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ミッシングのTSのレビュー・感想・評価

ミッシング(2024年製作の映画)
4.5
【僅かな希望の光】94点
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監督:吉田恵輔
製作国:日本
ジャンル:ドラマ
収録時間:119分
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 2024年劇場鑑賞12本目。
 映画館に来たのが『オッペンハイマー』以来実に1ヶ月半ぶり。これは、コロナで映画館が閉鎖されてた以来の期間かもしれません。。で、特に観たいのがなかったのですが、吉田恵輔監督の作品で高評価だからということで観に行きました。改めて監督で選ぶというのも一興だなと思いました。まだそれ程今年は映画を観ていませんが、今年の邦画の中でも最高峰の一角に入るのではと感じるほどの傑作でした。流石と言わざるを得ない。これで自分の中での超安定邦画の監督は吉田恵輔か白石和彌になりました。両監督の共通点は、テーマが重めというところでしょうか。それが合わない人はとことん厳しいでしょうが、自分は社会の生々しい現実を描く映画は好みなので今回もかなりフィットしました。

 娘の失踪事件から3ヶ月。なんの手がかりもないままひたすら捜索の協力をお願いするとある夫婦。やがて報道局もこの夫婦に密着取材をしていくのだが。。

 タイトルからも分かる通り、失踪事件を扱った作品です。で、吉田監督の作風に慣れている人ならば、少なくともハッピーエンドで終わるわけないだろうという気持ちで観に来ていると思います。ただし、バッドエンドというわけでもなく、どこかに希望の光がある、そんな含みをもたせた作風が吉田監督の強みでもあります。過去作の『空白』や『神は見返りを求める』でもそのような作風が感じ取られ、かつこれらは傑作でありましたが、それらを凌ぐ程の出来栄えでもありました。きっと今作は吉田監督の代表作となること間違い無いと思われます。

 さて、娘が失踪してから何の新しい情報もなく苛立ちを募らせる石原さとみ演じる沙織里ですが、これは体験した者でないと苦痛はわからないでしょう。今作でしばしば取り上げられるのが、「気持ちはわかりますが。。」などの一見親切そうに聞こえるけども、無責任で無感情な言葉です。確かにないよりかはマシかもしれませんが、当事者は非常に繊細になっているため、よかれと思って発したこういう言葉でも細心の注意が必要なのだなと感じられました。そんな中、当事者なのに疲弊した沙織里に気を遣い、言葉も選んでいた豊を演じる青木崇高が素晴らしかったです。石原さとみは言わずもがなの演技でしたが、動を演じた彼女に対して、ひたすら静を演じた青木崇高が凄かったです。何故かというと、豊が思わず感情が溢れて泣いてしまった時に自然と鑑賞者も涙が出てしまうからです。豊だって死ぬほど辛いのですが、夫婦2人ともパニックになって焦ると良い方向には向かない。落ち着いて対応をしていくそんな中で、感情が溢れる瞬間がたまりません。我慢していたんだなあ、と痛感する場面です。個人的にはラストあたりが本当にやばかったです。映画を観て久しぶりに涙が出ました。

 そんな主演2人の演技も素晴らしいですし、相変わらず社会の汚さを徹底的に、しかも自然に描いていく監督の力量にも脱帽させられました。はっきり言うと、今作にカタルシスなんてものはありません。絶望に一瞬光が見えたと思ったらまた絶望。しかもそれは自然の流れでそうなったのではなく、完全に人為的な流れでそうなったものが多く、現代社会の気持ち悪さが露呈しています。何だろう、社会全体が病んでいるのだろうか、それとも人間という集団は古代からこんなものだったのだろうか。やはり、人が人の不幸を弄び楽しむ、という理性は拭えないのでしょうか。とある人物が放つ「その事実が面白いんだよ」という言葉が強烈でした。というか報道局側も、事実を伝えようとする使命はあるものの、これを伝えたら視聴者は興味を持つ=面白がるというのをわかっていることでしょう。しかし、自分たちもそれをうまく言語化できていないだけで、報道局という仕事も世間のためになっているとは言え、非常に難しい仕事であります。今回、報道局側の中心人物が中村倫也演じる砂田です。彼は局の上司の判断などに疑問を抱きつつも動きます。ただ、疑問を抱くといっても所詮は他人事。必死に娘を探し続ける沙織里との温度差が浮き彫りになります。確かに感情移入するとフラットに事実を伝えられないというリスクもありますが、それでもこんなものを目の当たりにして淡々と仕事をしなければならないのは、余程精神力が強くなければ出来ないことでしょう。報道局そのものがなくなれば良いのに、とまでは思いませんが、やはり在り方を考えていくべきでしょう。

 ネットでの書き込みによる誹謗中傷については、他作でも触れられていると思いますが、今作は総合的に群を抜いていると思います。特に、報道の仕方によってその人のイメージが左右され、そこからネットで叩かれまくるというのはリアルすぎて恐ろしいです。自分達も何気なくSNSなどで情報を得ては、誰かを傷つけることはしてないか。この感想文一つとっても、映画の作り手からしたらどう感じるのか。今作の感想は絶賛気味なのでまだ耐えれる文章でしょうが、いつもの定番の批判、文句の文章を作り手が読んだらどう感じるのか。考えさせられるところです。

 社会は思っている以上に汚くて生々しいです。そして人の都合の良いように物事は進展しません。全ては巡り合わせ。この世の厳しさを痛感した傑作でした。
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