ふじこ

ジュリア(s)のふじこのネタバレレビュー・内容・結末

ジュリア(s)(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

いやぁ、わたしは凄く好きだった。
人生は自分の選択なんだろうか?それとも偶然が重なった結果なんだろうか?それともそこで出会った人に左右されるんだろうか。
ジュリアという一人の女性の"あったかもしれない人生の枝分かれ"を次々と場面を変えて見守る映画。
頻繁に場面が変わるし、何度か枝分かれして時代が飛んだりして、たまに あれ…これどの道を辿ったジュリア?って混乱してしまう時もあったけれど、自分の人生を振り返って"ああだったら""もしあれを選んでいたら"みたいに思わない人なんているんだろうか。いや、いるんだろうけど…全く自己評価が高くないので、たまに考えてしまう事がある。
あの時の決断で道を分かったわたしは、どんな人生を歩んだだろうか。
そんな風に考えた事がある身としてはとても面白かったわ。
むか~し、タモリがナビゲーターをしていた世にも奇妙な物語の姉妹作品みたいなオムニバスドラマで[ if もしも ]って作品があったけれど、あれも好きだったなぁ。

パスポートを落とした事に気付いて無事にベルリンの壁崩壊の瞬間に駆け付けたジュリア。
パスポートを落とした事に途中で気付いて引き換えした結果、ベルリンには行けなかったジュリア。
雨の日に書店で男と出会い、付き合ってコンクールに優勝するジュリア。
雨の日に男とはすれ違って出会わずに、コンクールで失敗してしまうジュリア。
ほんの些細なキッカケや出会いでその後の人生が枝分かれしていく。

ベルリンへ無事に辿り着いたジュリアは、それが両親にバレて喧嘩をした末にベルリンに移り住み、父と疎遠の人生を送り母の死に目にも遭う事が出来なかった。
しかしそれを機に父と和解し、ベルリンで父と同じピアノの工房をやっている、一緒にやらないかと誘う。

書店で男に出会わず、コンクールに失敗したジュリアはしかしピアノストの付き人として活動中にエージェントに見出され、売れっ子ピアニストとしての人生を送る。
しかしキャリアを優先するばかりで夫(エージェント)が子供を欲しがってもタイミングが悪いと跳ね除ける。
そしてカフェでは学生時代に恋をしていた男と再会を果たす。

書店で出会った男に励まされて緊張を解しコンクールで優勝、そして結婚。夫の仕事の先行きも良い。
けれどある日の帰り道で、ジュリアが運転したスクーターか、夫が運転したスクーターか。それだけでまた未来が変わる。
無事に家に辿り着き、妊娠。ピアニストとしてのキャリアを諦める事になったものの、夫の会社が成功し2人の子供を儲けたジュリアが一番順風満帆かと思いきや、母の癌が発覚した際に夫が親友と浮気をしていたのを知り転落していく。
一方は事故に遭い、腕を怪我してピアノを諦め子供を失いその後不妊治療の甲斐なく子供が出来ず男と離婚。
しかし音楽からは離れられず高校で合唱部の生徒達を子供代わりに精力的に活動し、母の癌で病院に駆け付けてそこで出会った医師と交際をする。

そうして人生を生き抜き、80歳の誕生日を迎えたジュリアの現実に繋がる。
実際の彼女が生きたのは、一番最後。コンクールで優勝するものの事故に遭い夫と離婚。
沢山の学生達を指導しながら医師と付き合い、色々あったものの彼と結婚し、彼の娘の出産にも立ち会う。
そして大きくなったあの時生まれた子にエスコートされ、向かったホールでは今迄の教え子が彼女を取り囲んで歌をうたう。幸せな光景だと思う。これが彼女が人生を捧げて成した結果。

大きなターニングポイントが幾つかあって、映画ではその中からそれぞれ1つをピックアップして描いているのだけれど、劇中では上手く行かなかった書店の男と子供が居ても居なくても幸せに暮らす世界だってあったかも知れないし、ベルリンに拠点を構えたジュリアも、もっと早くに親と関係を修復出来た機会もあったかも知れない。

"あったかも知れない人生"ってなんて甘い響きなんだろう。そして同時に、なんとも言えない気分になる。
今はなかなか幸せに生きていると思っているけれど、もっともっと見た事もないくらい輝く人生を送っている…自分はあんまり想像出来ないけど、まだ地元に住んで、全く見知らぬ人と結婚をしていたかも知れない。独り身かも知れない。何処かでうっかり事故に遭って生活に難儀しているかも知れないし、想像もしてない仕事をしていたかも。
あぁ、"そうだったかも知れないわたし"に思いを馳せると、甘くてでも胸がキュッとして…なんで人生は一回しかないんだろうなぁ~~って気持ちになる。それと同時に、幸せでやれよ とか、でも慢心はするなよ とか。戦友のような気持ち。でも決して覗き見たくはないような。"わたしの知らないわたし"を考えた時にしか現れない不思議な感情だ。
観終わって、余韻を味わって、内容の事を考えて、それに連なる自分の事まで考えられる。
映画っていいなあ。

映像としては凄く自然な感じでジュリアも周りも年を重ねていって、そこが凄く良かった。流石に老齢は瞳自体が若すぎて無理があったけども…。あとベルリンのジュリア以外急に出てこられると どの?ってなるけど…。
あと、あらすじに書いてある80歳の誕生日にこれまでの人生を振り返り、あったかも知れない今ではない人生に思いを馳せる…って描写が先にあったらなぁ~~~。現実はどの道を辿ったジュリアなんだろう?って疑問は残しつつ、振り返って想像しているのだって描写がある方が個人的にはワクワクしたかも。好みの話かな。
ふじこ

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