この物語の主人公は、南と博の2人なのか、南博の1人なのか…。どちらにでも解釈できそうですが、おそらく後者でしょう。かなり時間軸を錯綜させていますが、さまざまな矛盾を解消しようとしないシュールな演出なので、かなり混乱します。そこが面白い作品なのかもしれません。
ただ、そんな演出のせいか、南博の人格や行動原理がはっきりしないので、物語の主軸を理解できないまま終盤になってしまいました。原作がエッセイのようなので、それをフィクションに脚色するなら、もっと物語のテーマを明瞭にする必要があります。
あらすじやポスタービジュアルからすると、ハードボイルドでロマンチックな作風をイメージしていたので、下品なコメディのような演出にがっかりしました。当時の銀座って、こんな俗っぽい街だったのでしょうか。
池松壮亮さんはさすがの演技で、ピアノ演奏もしっかりしています。森田剛さんもうまいんですが、最近はこういう役柄ばかりで、ちょっと既視感が…。クリスタル・ケイさんが歌っていた“Nobody Knows You When You're Down and Out”(JazzじゃなくてBluesですが)は、フルで聴いてみたいです。