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キリエのうたのaoiのネタバレレビュー・内容・結末

キリエのうた(2023年製作の映画)
1.0

このレビューはネタバレを含みます

傷を抱えて生きていかなければいけないひとたちのための、音楽による贖罪と救済と再生の物語。忘れたい過去、どうしようもない現実、ひととの出会いと別れ。キリエの悲痛な叫びのような歌声は、そんな悲しみや苦しみに寄り添い、一緒に泣いてくれるようだった。
愛があっても血縁や法的根拠がなければ、離れ離れになってしまう。どんなに大切に想っていても。それでもそれぞれが生き抜いた13年間のすべてが繋がって、かけがえのないこの瞬間がある。ずっと続かないことはわかっていても、こんなにも暖かい時間が末永く続くように、それぞれの未来に優しい光が射すように、目を閉じ指を結び、祈りたくなる。



ふんわり綺麗に言ってしまえばそうなんだけど、どうしてもそのテーマを描くための前提や演出が受け入れられなかった。ストーリーの乱暴さ、登場人物の倫理観、全然好きになれず…落ち着いてみれば、上っ面ばかり捉えて、ちょっと真面目に観過ぎたなかな、と反省。でも確かに面白くないと思った気持ちだって大切にしたいので、忘れないように書く。

良くも悪くもアイナ・ジ・エンドの映画。とても魅力的に撮られていた。それに尽きる。ファンはきっと嬉しいだろうね。それならもっとキリエ自身の曲を聴きたかったし、大事な曲、フレーズはここぞって場面に取っておいてほしかった。思っていたより何度も聴いたフレーズの繰り返しや流行曲のカバーが多くて辟易とした。

逸子、結局は嫌がっていた女を武器にする生き方しかできず、男を騙してのらりくらり逃げ回るどうしようもなさばかりが印象に残った。儚く悲痛に描かれた最期も、映像としては美しかったけれど、いや、自業自得では…となり、過去の思い出でも補正しきれず、全然悲しくなれなかった。泣かせにくる場面なのかと思えば、ひょっこり武尊が出てきて??となるし。もっと逸子の心情や過去が詳細に描写されていれば違ったのかなあ、と残念。
旅人も風美もめちゃくちゃ良いひとなのはわかるけど、特に人物の掘り下げもなく、ただ間抜けをやらかすだけだったのがもったいない。

心から好きではなかったであろう希が妊娠して、卑怯だとわかりつつも、音信不通になり、挙句なかったことにならないかな、と漏らしてしまう夏彦も、警察の制止を無視してライブを強行するミュージシャン及び聴衆たちも、エモでもなんでもない。普通にダメなもんはダメだろ…と、クソ真面目に観て、ちゃんと嫌な気持ちになってしまった。アホ過ぎる。夏彦に関しては特に、それによる感情のゆらぎや決意、罪悪感を描きたいのはわかるのだけど。どうしようもない。

なにより、キリエが襲われる場面や希の下着姿をわざわざ長尺で盛り込んだ意味…生々しさが必要な場面だったかな。誰のためのカットだったのかな。岩井俊二の気味の悪さは好きだけど、それとは到底違ったベクトルで受け入れられなかった。ただただ怖かったし、気持ち悪かった。

ずっとずっと楽しみにしていたのもあり、予告映像からわかる情報だけを偏って仕入れて勝手に想像してしまったせいもあり、ちょっとした違和感が受け入れられなかったのかも。変な期待をし過ぎたのかも。とことん自分には合わなかった。



とは言え、映像と音楽(要所要所のピアノ、クラシック)の美しさはやっぱり格別。変わらずに大好きなままだった。なんやかんや言っても3時間を全く長く感じず飽きずに集中できたのは、それによるところなのかも。青、紫を帯びた画面。海での全身を目一杯に使ったキリエの表現が特に印象的。カメラがローアングルになるだけで、心がグッと掴まれるようだった。時々ブツ切れになるコマ割りとアンバランスな音響は気になったけど。

岩井俊二の描く雪景色、なんであんなにきらめいて見えるんだろう。冒頭から、指の先と鼻の奥がツンとする感覚に目が潤んだ。雪の中で路花が歌うさよならには息を呑んだ。
そして少女二人組の透明感、危うさ、美しさ、儚さ。ずっとこの空気のまま閉じ込めていたくなる、触れたら壊れてしまいそうなきらめき。
路花と真緒里、夏彦の帯広での時間がいつまでも続けばいいのに、って。
さよなら〜エンドロールが素晴らしかった。岩井俊二と小林武史のタッグ、いつまでもロマンチックでいてくれ。

うさんくせ〜広瀬すずの口調と声色と御尊顔。美形はどんな髪色でも様になっちゃうな、と惚れ惚れした。奥菜恵が母役なのも納得。顔立ち似てるよね。ラストレターの頃を思い出したけど、やっぱり顔付きがより大人びていて、当たり前なんだけど時の流れを感じて切なくなっちゃった。
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