肉袋

PERFECT DAYSの肉袋のレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.0
渋谷のトイレがかくもフォトジェニックとはね…建築家に造らせたりしているのはうっすら知っていたけれども、美しいながらあくまでもトイレというところが物語の展開の場に相応しいように思える。これが美しい建築の美術館という美しさ一辺倒の場であったらこんな物語は展開しないだろう。
ひとの営みをただただ映し出していきドラマは起こらない。それでも引き込まれるのは役所広司の演技によるもの。
おじさんのアメリみたいな感じで、謎の幸福感と主人公への好感がじんわりと残る良い映画でした〜。

ただし、これを「ミニマルな暮らしぶりのエモさ」的に安易に称賛する見方があり得るのでそれは危ういと思う。
トイレ清掃をあれほど実直にこなしてもガソリン切れでカセットテープを売らなくてはならないほどジリ貧の生活。そして美しい建築のトイレは渋谷区であるのに、住んでいるのはスカイツリーが見える下町だ。自分は使わない美しい場所を磨くために、貧しい場所から労働にくる人、というのはなにか恐ろしい搾取を感じさせる。
このようなマイルドな搾取、貧困を清貧、美と礼賛するのは、貧しさを客体化し消費する図々しさでしかなく、資本家や為政者の目線のようではないか。このような暮らしこそが素晴らしいものであるかのように特別視や美化をしかねないのは恐ろしいと思う。自分が本当にトイレ清掃で暮らしたいというなら話は別だが。

とはいえこの映画はただ普遍的な人の営みと、奇跡のように一瞬だけ重なった誰かの営みと誰かの営みを描く、ある一つのPerfectDaysを切り取ったものとしてとても温かみがある素晴らしい映画ではあります〜!
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