HAYATO

落下の解剖学のHAYATOのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
3.7
2024年71本目
見たい作品が多すぎる本日公開映画の1発目は、カンヌ国際映画祭コンペティション部門で最高賞のパルムドールを受賞したサスペンス
フランスでは100万人以上を動員する大ヒットを記録し、ゴールデン・グローブ賞では2冠に輝き、アカデミー賞でも5部門にノミネートされている話題作
ある日、人里離れた雪山の山荘で、視覚障害を持つ11歳の少年が血を流して倒れていた父親を発見する。当初は転落事故によって死亡したものと見られていたが、後に不可解な点が多く発見され、前日には夫婦ゲンカをしていたことなどが明らかになると、妻であるベストセラー作家のサンドラに徐々に夫殺しの容疑が向けられていく。
メガホンを取ったのは、本作が長編4作目となる女性監督・ジュスティーヌ・トリエ。
ジュスティーヌ・トリエの実生活のパートナーで、『ONODA 一万夜を越えて』を手掛けた映画監督でもあるアルチュール・アラリが共同で脚本を執筆。夫婦崩壊の道筋を辿った物語を実際のカップルが描いているというのは実に興味深い。
ジュスティーヌ・トリエと『愛欲のセラピー』でもタッグを組んだザンドラ・ヒュラーが主演し、スワン・アルロー、ミロ・マシャド・グラネール、アントワーヌ・レナルツらが出演。スワン・アルローはブレントフォードFCのトーマス・フランク監督にちょっと似てる。
不審死の真相に迫るミステリー寄りの作品なのかと想像していたけど、実際のところ確固たる事実は伏せられたまま。
フラッシュバックのような手法はほとんど用いられず、様々な証言や証拠をもとに法廷で事実を推認していくストーリーであり、目撃者を盲目の少年と設定することで、より一層真相を見えづらくしていた。
サンドラが自宅で学生から取材を受けていると、突然、大音量でBacao Rhythm & Steel Bandの”Pimp”が鳴り響く演出は、その音色にとても中毒性があるせいか、得体の知れない不穏な空気を感じさせ、その後の展開への興味を湧かせる。
中盤からの法廷劇は、まるでドキュメンタリーのようなリアリティがあり、フランスらしい小粋なユーモアを挟みながら、次から次へと新たな事実が浮き彫りになっていく。
夫婦の役割をめぐって激しい口論を繰り広げるシーンは、『マリッジ・ストーリー』を彷彿とさせ、家族の中での役割を背負った人間が、どのように「個」としての人生を歩むべきなのかについて考えさせられた。愛し合っていたはずの夫婦ですら、お互いを理解しきれない人と人との付き合い方の難しさよ。
両親の愛がここまで衰えていたことを法廷で知る息子・ダニエルの心情は察するにあまりある。
2ヶ国語を駆使して見事な演技を見せてくれたサンドラ・フューラーの演技もさることながら、息子のダニエルを演じたミロ・マシャド・グラネールとスヌープ役でパルム・ドッグ賞を受賞したメッシくん(ボーダーコリー)の演技が素晴らしかった。
劇中では、小説家が実体験を自分の作品に反映させていると検事が述べる一幕があるから若干心配したけど、VOGUEのインタビューによれば、ジュスティーヌ・トリエ監督は夫に殺意を抱いたことはないらしいので一安心。
割と静かな展開が続く作品だったので、前方のおじさんのイビキに腹立ってしょうがなかった。
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