Omizu

落下の解剖学のOmizuのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
3.6
【第76回カンヌ映画祭 パルムドール】
『ソルフェリーノの戦い』ジュスティーヌ・トリエ監督作品。カンヌ映画祭コンペに出品され最高賞を受賞、アカデミー作品賞にもノミネートされている。

いやー、これは過大評価じゃないかなぁ。少なくともパルムドールをとる作品ではない。女優賞だったら納得だけど。

ザンドラ・ヒュラーはよかった。『ありがとう、トニ・エルドマン』『希望の灯り』など彼女の出演作はどれも素晴らしく、出る作品の選び方も流石だ。

クオリティは高いと思う。二時間半ずっと興味を持って見続けられるくらいの強度がある作品なのは間違いない。地味ながらサスペンスフルな語り口は興味深い。

「彼女が夫を殺したのか?」というのは作品を貫くミステリーではあるが、それだけに留まらない。人間の持つ不完全さ、揺れ動きを上手く描写していると思う。目が不自由な息子もいいバランス。真の主役はこの子なんじゃないかというくらい繊細に心の機微が描かれている。

ジュスティーヌ・トリエは作品の出来に波があるタイプな気がする。『ソルフェリーノの戦い』は傑作、『愛欲のセラピー』は駄作という印象で、本作はその中間くらい。セザール賞でも本作が無双しているが、トリエのベストワークかというとそうではない気がする。

出来の良さは間違いないし、楽しめなかったかというとそんなことはない。トリエ特有のダイナミズムが出ている一作ではあるが、パルムドールという名に相応しいかと言われると微妙な気がする。ここまでアメリカでも大受けしているのはよく分からない。

グレーな感情で終わる結末を含めいいと思ったところはたくさんあるが、にしてもここまで席巻するか?というのはまた別の話。ザンドラ・ヒュラーの演技は賞賛すべき。そこに異論はない。トリエの中では中ぐらいの作品ではないかと思う。悪くはないが地味すぎる。
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