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ドラキュラ/デメテル号最期の航海のkitoのレビュー・感想・評価

3.7
世評はイマイチだけど、面白かった。

未読のブラム・ストーカー「ドラキュラ」にこんなエピソードがあったんだ。もちろん、古今東西、数多ある映像化作品の全てを観たわけではないけれど、本作の船上エピソードは知らなかった。原作の一章を映画化したそうで、だいぶ話を膨らませているのだろう。だいたい舞台はトランシルヴァニアかイギリス、あるいはその両方だと思う。名高い1958年のピーター・カッシング、クリストファー・リー共演版でも海上のエピソードはなかったと記憶している。

映像が美しく、手間もコストもかかってる感が溢れている。デメテル号が大海原を進むCGが雄大で綺麗。ホラーなので夜と船倉という暗いシーンが多く、環境によっては観づらいかもしれないが、黒は潰れておらず適度な集中力を要する良い塩梅の暗さだと思う。船員が合図で船縁を叩く音も、(もちろん再生ボリューム次第だけど)ちゃんと微かに聞き取れて物語に入り込めた。

Wikipediaによるとなるほど制作費が巨額の45百万ドル。ただし、興行収入が全く届いておらず大赤字になっている。観終わってから知ったのだけど監督はめっちゃ怖かった「ジェーン・ドウの解剖」のノルウィー人アンドレ・ウーヴレダル。続編を観たいけれどこの興収だと厳しいか(映画産業において興行的に大きな失敗をした映画作品を意味する用語のボックスオフィス・ボムに数えられている)

不評な最大の理由はやはりドラキュラのビジュアルだろう。コウモリがモチーフと知ってはいても、映画やアニメ、漫画で散々刷り込まれた伯爵姿とのギャップがあまりに大きい。船内というソリッドシチュエーション・ホラーも相まって、もはや「エイリアン」の二番煎じに思えてしまう。故郷では伯爵で通してたけど旅行中は本来の姿が楽なのか、"駅弁がわり" の女子を奪われて怒り心頭に発したのか。

各種レビューで、犬や猫が殺されるのはけしからん、というつまらない記述を目にするが、本作のソレに文句はないのだろうかーー知らんけど。

もう一つ疑問だったのは、十字架を恐れていない点。原作ではどうなのか定かではなく、監督の宗教観なのかもしれないが違和感はある。主人公がオックスフォード大卒初の黒人医師というのも、何やらポリコレ風を加味しているのかと邪推してしまう。

書き出すとダメダメな点が多いのだけれど、古典の格調高い映像化としてシリーズ化されたらきっと観ると思う。
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