すずや

瞳をとじてのすずやのレビュー・感想・評価

瞳をとじて(2023年製作の映画)
-
この映画はきっと、「喪失」と「時間」の話なんだろうなと思った。
失われたものって、大体卑怯なほどに強い。失われた瞬間に時が止まり、そこから歩みを進めることなく、損なわれることもなく、なんなら時が進むほどに美化されていく。ミゲルの瞼の裏にも、あの日失ってしまったフリオの姿がある。
だけど、残された方は、喪失を乗り越えていようがいまいが時間が勝手に流れていく。ミゲルにはフリオのいなかった時間もあって、そんな人生も間違いなく生きてきた。"フリオを失った人生"も、ミゲルにはあった。でも、そんな人生にも、失ってしまったフリオの姿が離れることなくそこにあって、瞳をとじて思い出せば、そこに一気に引き戻されて、なにがなんでも、その人生を引き戻したいと思ってしまう。なんてずるいんだろう…
喪失を忘れずにいても、時間は勝手に流れていく。相手がいない人生は死なない限り勝手に存在し続ける。すごく残酷だけど…この共存の可能性、そこの提示にどうしようもないほど打ちのめされた。昔読んだジョン・グリーンの小説にもあったけど、「喪失を味わっても人生は続いていく」んだよな…

さらに美しいなと思ったのは、映画そのものにも同じ、「時間を止める力」があるってこと。映画もまた、「時間を止める力がある」ツールなんだよね、〈喪失〉と一緒で…あのフィルムの中でフリオの姿は衰えない。22年前のあそこで止まってる。それがエリセにとっての「映画」なのかもしれないし、愛なのかもしれないねと思ったり……

にしてもこんな、また、『エンパイアオブライト』とか、『フェイブルマンズ』みたいな、映画監督人生総集編みたいな映画がくるのかよ…と考えずにはいられない。映画ってつまるところ凄くパーソナルなものなんだろうなと思う。
すずや

すずや