すずや

異人たちのすずやのレビュー・感想・評価

異人たち(2023年製作の映画)
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企画の噂が立ち上がった段階からすごく楽しみだった1本。
ヘイ監督にとっての"ゲイアイデンティティ"の在り処を、『ウィークエンド』から10年以上の時が経って捉え直すような、そんな1本だった。"クィアであるからこそ経験する孤独感"というヘイ監督の作品に共通する命題を中心に据えつつ、過去の家族との溝の修復、慣れてしまった孤独感に再度向き合うこと、そんな再解釈がすごく良かった。

再会した両親へのカミングアウト、疎遠になっているハリーと両親、両親と自分の間にあるわだかまり、そんな、ゲイであるからこそ経験することが詰まっていて、やっぱり、(自分がクィアだと思っているからこそ)この映画を普遍化して捉えたくなくて…"誰もが孤独を抱きしめて生きていこう"なんて私にはとても言えないし、純粋に、クィアとしての"ああ、わかるなあ"という感覚が嬉しかった気持ちがいちばん大きい。洗練に洗練を重ねたクィア映画、クィアのための、クィアを捉えた映画だ、って嬉しさを普遍化されたくない気持ちがすごく大きい。やっと、クィアの自分を眼差してくれる美しい物語がそこに有ったんだから、って…
あとほかの方も仰ってると思うけど、クィア観に対するジェネレーションギャップのとらえかたも面白かった。80年代のエイズクライシスを経験しているだろう監督自身やアダムと、そうじゃないハリーの間にあるアイデンティティの捉え方の差異が面白かったし、80年代に生きる両親と今にいるアダムの間にある"同性愛者"観の違いも興味深かった。

Always on my mindを口ずさむシーンがすごく心に残ってる。ずっとゲイアイデンティティ由来で苦しんできた子供が、ゲイアンセムにも等しいAlways on my mindをストレートの両親が口ずさむところを見る…って、何重にも皮肉だなあって…
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