バス釣り太郎

瞳をとじてのバス釣り太郎のレビュー・感想・評価

瞳をとじて(2023年製作の映画)
4.3
『ミツバチのささやき』を全年代が幼少期に繋ぐことのできる架け橋だとするなら、こちらはある程度人生を進めた人というかご老人にしか掛けられない橋で、ヒヨっ子の俺が観る映画じゃないじゃん…と序盤で嘆きつつも、閉じかける瞳(瞳を閉じてってそういうことじゃない)を擦りながら、もう遺作になるやもしれない大巨匠の最新作を見届けた。
カウリスマキやヴェンダースが未だ時代に逆行し奮闘している中エリセは近代を真っ直ぐと見つめていてそれには至極偉いなと思う一方で、テレビ番組やガラケーが出てくるエリセの画面は正直全く見たくないほどの平凡さだった。さらには大量の台詞で丁寧にストーリーテリングを行う割に、ミツバチ、エルスールに現れた心を撃ち抜くようなシーンは最後の二、三十分までほぼほぼ出会えず、これには流石に31年の長編ブランクによる衰えを感じざるを得なかった。

のだが…それだけにあの終盤はどうこねくり回しても嫌いになれない。「ソイアナ」のサービスはやりすぎにしても(本当はめっちゃ嬉しい)、ラストでのカタルシスはドバドバと滝のように止まらない。『ミツバチのささやき』のオープニング、移動映画館の中スクリーンを見つめた(アナとわれわれの)まなざしが、同じ輪廻を辿りながらまたもやスクリーンを見つめ、今度は瞳を閉じる(ということはやっぱり遺作じゃないか…泣)。エンドロールで双面のヤヌス像が至らせる余韻は今のところ永遠だ。

結果3.5くらいでも5.0でもいいんだけど、冷静になったらこのくらい笑 でもエリセが老いについての映画を残したことで、これから先はこの映画と一緒に老いられることが今は嬉しい