nile

月のnileのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
4.5
障害者施設での虐待や創作活動を通して生きるとは何か、人間とは何かを描いた社会派作品。
先日新しくなった上司に「ジジイになっても簡単な仕事しかできない奴はダサいし働く意味が無くね?」と言われたことを思い出した。明確に勝ち負けが付くスポーツを長年やってきた人物が生産性が第一に考えられる仕事という環境に身をおいたならそうした発言をしてしまうのは多少は意味は汲み取れるが、そこに働くひとりひとりの人生までをもその価値観で判断されてしまうのは苦しい。どう頑張ったって能力が及ばないはいるし、敢えて努力せずにラフにしている人だっている。そんなアレコレを思いながらも自分の部下は優秀な方が良いし、他人の尻拭いだって出来ればしたくないというのが本音。
今作でも健常者から見た世界でごくごく当たり前のことが出来ず、ましてや意思疎通すら出来ない障害者に生きている実感はあるか?と言われたら口を濁してしまう。主人公だって確信をもって言えない。優生思想が生んだナチスの所業を知っているから佐藤くんの言動はとりあえずは否定するが、皆誰しも少なからず存在に優劣を付けて生きている。そして自分よりも下の人間を見て安心する。新しい命を授かったものの夫婦の年齢から生じるリスクは拭えない。どうにも腑に落ちないラストは現実でも答えが見つかっていないから。
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