ももいろりんご

ナチ刑法175条/刑法175条のももいろりんごのレビュー・感想・評価

ナチ刑法175条/刑法175条(1999年製作の映画)
3.7
昨年観た「大いなる自由」が公開された際に、本作の特別公開があったのですが、タイミングが合わず…今回レビューワー仲間の方からK’s cinemaさんで上映があると聞き、観てきました。
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体験者の証言をもとにしたドキュメンタリー。制作は1999年。覚悟はして観たけれど、半世紀を経て話をしてくれた方々の経験の重さは私にものしかかった。
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ドイツで同性愛者を差別する<刑法175条>。主にナチ支配下で男性同性愛者が弾圧され、逮捕、うち1万から1万5千人が強制収容所に送られた。ユダヤ人迫害と同じく強制労働や医学実験がされていた事実を、6人のゲイとひとりのレズビアンが証言する。
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本作は歴史学者のクラウス・ミュラーが当事者たちに話を聞きに会いに行くのだけれど、ドイツに住むミュラー自信がこの迫害の事実を知らず、調べ始めたことがきっかけらしい。
完全に表舞台には出てこなかった史実。
この法の完全撤廃にドイツは1994年までかかっており、その間多くの同性愛者たちがおぞましい記憶と刷り込まれた恥じる気持ちに口をつぐんでいた。
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レズビアンは存在そのものが”ない”とされていたから、175条の対象外だったと記憶していたけれど、「矯正」可能とされ、さらには妊孕性…つまり子どもを産む道具として利用するために対象外だったという説明があり、悔しいけれどそうだったのかと腑に落ちた。
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1920年代のベルリンは性に寛容で、同性愛者の集まるバーやクラブで恋愛を謳歌していたというのは意外な発見。刑法175条は1871年に制定されていたので、逮捕される可能性はあったものの、戦前は10代の、それも中学生位で身体の関係を持っていたと赤裸々に語られたり。
形ばかりの法と気楽に考えていた同性愛者たちは、ナチスが台頭するにつれ状況が悪化。裏切られ断絶されていった。
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ポスターのピンクの逆三角=ピンク・トライアングルは収容所での男性同性愛者の識別マーク。(黄色の星は知ってましたが、逆三角の赤は政治犯、茶色はロマなど、初めて知りました💧)
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収容所からの生存者はおよそ4000人。本作製作時に生存が確認出来たのは僅か10名弱。2024年の今、存命者はもういない。貴重な歴史の証言だった。