結局カレー

市子の結局カレーのレビュー・感想・評価

市子(2023年製作の映画)
3.8
女優・杉咲花が生き抜いた川辺市子の壮絶な人生ドラマ。プロポーズ翌日に失踪した市子を探すため、恋人の長谷川が市子を知る人たちをめぐり明らかになる“川辺市子”という人物とその人生。杉咲花ちゃんのどこか幼なげなのに色気がある魔性感はなんなんだ。この掴み所のなさ、大女優のソレすぎる。

彼女の生い立ちや生活環境を思うと同情する思いもあるけれど、自分の人生を阻む存在をふと排除できてしまう怖さやその容赦のなさがとてつもなく危うい。でも彼女は犯した罪によって学ぶ権利を得て、彼女自身の身体を守り、明日からも生きていく権利を得たわけで。私はここに存在している!と叫び出したい気持ちを抱えながら、今や彼女の存在を明るみにするのはこの罪だけという皮肉な矛盾。切っても切り離せない「生い立ち」や「罪」が彼女が生きていくための唯一の武器なんて苦しすぎるな、、

幸せを目の前にした逃避行。プロポーズされたときの大粒の涙は全てを知った後にまたみると意味合いが全然違って見える。杉咲花ちゃん、ひょっとして涙の粒の大きささえも調整できるの?感情移入したくてもできないような生き様の市子をちゃんと一人の人間たらしめる演じ手の熱量に感服ですわ。
些細な日常という幸せの賜物すら生きるためにはそれすら手放さなきゃならなかったこの悲しみは果たして彼女がもたらしたものだったのかな。外野の無力感を思い知る映画だった。