Sari

悪は存在しないのSariのネタバレレビュー・内容・結末

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

東海地区で初日の5月3日に、ドキドキしながら緊張感溢れる映画鑑賞はいつ以来だろう。ベネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞した濱口監督の最新作は、『ドライブ・マイ・カー』で音楽を担当した石橋英子氏との再タッグ作品。
当初は石橋氏のライブパフォーマンス用の映像製作だったとのことだが、長編映画として製作された。長野県の自然豊かな高原の町で、都会からの移住者も含め地元住民は自然の恵を大切に慎ましく暮らしている。そこへ、グランピング場の設営計画が持ち上がる。そのグランピング場を作ろうとしているのは、コロナ禍の煽りを受けた芸能事務所。資金繰りに困り政府からの補助金を目当てに何の縁もない町にグランピング場を作ろうと押しかけた為地元住民の反対にあう。水源に汚水が流れる疑惑、ずさんな計画であることが町の人たちに向けた説明会で明らかとなる。
オープニングのタイトルクレジット、タイポグラフィからゴダール、後に『ゴダールの決別』オマージュと思われる、だるまさんが転んだシーンあった。
森の木々を下から上へ仰ぎ映すカメラワークの長回し。淡々と主人公・巧の日常ルーティンが長回しのワンカットで始まる。自然光を活かした撮影が素晴らしい映像と石橋氏の幻想的な音楽表現が見事だが、その音楽をブツ切りさせたのは驚いた。
主人公・巧の過去は語られていないが、おそらく妻を亡くし最愛の娘と二人で暮らす無職の男。自分では、便利屋と言っている。棒読みセリフは濱口監督の意図的な演出。演技経験はなく素人の方を主役に抜擢。謎めいた巧の人物造形に効いていると思う。印象的なのは、巧の薪割りシーンとそれに触発された芸能事務所・高橋が薪を割るワンカット撮影。

グランピングとは、グラマラス+キャンプを掛け合わせた造語。ただキャンプブームは終焉した今、違和感はあるが、物語展開のキーの一つでしかなく、他に良い案がなかったのだろう。

終始不穏なムードを漂わせながら、住民側と芸能事務所側の両サイドの人間を描く会話劇の面白さ。誰しもがどちら側の当事者にもなり得るという、【悪は存在しない】というタイトルの受け止め方。社会の対立構造、自然、動物と人間の共存。解釈を委ねるラストシーンは痺れた。豊穣さと驚きに満ちた傑作。
後で考察をもう少し深めたい。
Sari

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