ひでG

人間の境界のひでGのレビュー・感想・評価

人間の境界(2023年製作の映画)
4.2
子ども連れの家族の姿が車内でも多く見られた五月晴れのGWの中日、世界にはそんな平和でのどかな風景とは真反対の家族がいたことをこの映画で改めて知った。

3人の子ども(ひとりはまだ乳飲み子)と夫婦とその父の6人家族。そのまま日本観光を楽しんでいる方々に置き換えることもできる家族構成。だが、彼らは森を彷徨い、食べ物も水分も与えられず、トラックに押し込められ、靴からは血が滲み、犬に噛まれ、母はお乳も出なくなる、、、必死の思いで隣国ポーランドにたどり着くと、すぐさま、国境警備隊からエストニアに戻られる、、まさに悲惨の大洪水、、観ているのが辛くて苦しくて、、でも、実話なのだ、本当にあったことなんだとジッと堪えて観ていた。

2021年、「ベラルーシ経由でEUに入れる。」という情報が流される。ベラルーシのルカシェンコ政権がEUを混乱されるために大量の移民を隣国ポーランドに送り込む「人間兵器」と呼ばれる極悪非道な政策に翻弄される移民たちが描かれる。

「ヨーロッパに行けば自由になれる。」そんな期待に胸を膨らませていたシリアからの難民一家。駅に待っているはずの親族は居らず、そこは人里離れたベラルーシの森。食糧も水分も携帯の充電もなく彷徨って、よーやく着いたポーランドでは、国境警備隊にすぐさまベラルーシに戻される。
ずっと泣き続ける赤ちゃんの声が痛たまく、
何度か画面から目を逸らしてしまった。この家族の映像が続いたら辛くて最後まで座っていられなかったかもしれない。

しかし、映画は、ポーランドの警備隊や国境近くの住んでいて、あまりにも悲惨な現状に移民を助ける活動に入っていく女性など幾つかのチャプターに分け、この問題を多角的に描いていく。ここがこの映画の奥の深さだと思う。
チャプター1で移民たちを人間扱いしていなかったポーランド側の国境警備隊に所属する1人の青年にスポットが当たることにより、この問題の深刻さがさらに明らかになった。
非人道的な行為が国家の仕事として若者に押し付けられ、彼らの中には人としての心を失っていく者も少なくない。彼らもまた被害者のひとりなのだと思う。

そんな辛い場面が繰り替えられる中で、難民たちを救う活動に参加した女性を描くチャプター。単に人を助けるなんて簡単なことではない。助ける人たちも立ち入り禁止地に入るだけで逮捕される危険性もあるのだ。
助けを求めた彼女の友人は、活動の必要性を分かりながら、協力を拒む。その行動も理解できるだけに、さらに深刻な気分になる。

終盤に助けられたアフリカ難民の青年たちと施設のヨーロッパの若者が、即興でラップを歌うシーンがある。そう、一緒に歌うこと、笑うことが何で出来ないんだろうか、、
勿論、経済的なことも含めて考えなければ難民問題は解決しないことは分かる。だが、どこかの大統領やどこかの元大統領のように、「移民共!」と罵るリーダーや武力で他国を攻撃するリーダーたちを支持する人たちに、この映画をぜひ観てほしい。
そして、日本の人たちにも観てほしい。観て語り合い、考えを深め合いたい。それだけの価値のある一作だと思います。
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