モモモ

人間の境界のモモモのレビュー・感想・評価

人間の境界(2023年製作の映画)
4.0
世界がナショナリズムと排他主義に傾き、コロナが多くの人の命を奪い、侵略戦争と虐殺で世界秩序がハリボテであった事が露呈しや現代で、それでも人の善性を信じ、若い世代の柔軟さと共鳴を願う、移民の苦難と人を人と思わない暴力性の恐怖を描く傑作。
唐突な暴力描写がくるのではと序盤は身構えていたのだが、完全な杞憂。
血の気が引く瞬間は静かに訪れる。
沼に沈む少年、僅かな沈黙の後に響く二人の悲鳴。
投げ捨てられた妊婦は己の出血に言葉を失う。
何度も何度も国境を進みは引いて、進みは引いてを繰り返す。
移民と、警察と、活動家達の群像劇の中で、己の善性に従う者達の静かな抵抗。
目が合っても「見逃す」事を選択した男は静かに己の行動を頷き肯定する。
警察の中でも暴君に不快感を示す人は存在するし、デモに参加はすれど直接的に手を貸さない(貸せない)人も存在する。
それぞれがそれぞれの立場の中で足掻き、苦しむ。
より悪く、より醜くなっていくこの世の中では露悪でも冷笑でもなく、綺麗事への祈りを素直に込めた本作のようなフィクションが必要なのかもしれない。
モモモ

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