まじさん

16ブロックのまじさんのレビュー・感想・評価

16ブロック(2006年製作の映画)
4.6
(主観的)あらすじ。
かつては命知らずと言われた俺も、今じゃ定年間近の窓際族、酒浸りの日々を送る毎日だ。何処で無茶したのか、今は昔撃たれた脚が言うことをきかねぇ。脚のケガが原因で一線を外されてから、女房は子供と出て行き、今は気楽な独り身だ。昔の栄光?さぁね。昔はテロリストと戦い、ニューヨークを救ったヒーローと呼ばれた事もあったが、それをネタに冷やかすうるさい連中がいてね、今はヒゲも生やし、ジャック・モーズリーと、名前を変えた。気に入ってたイニシャルだけは残した。警官は楽な仕事だ。残業もないし、言われた事だけをやってれば酒代が稼げる。
そんなある日、俺は署長のダンに呼び出され、何かの事件の証人になる囚人を、16ブロック先の裁判所に送り届けてくれと言う。オイオイ、俺はイエローキャブじゃねぇんだよ。だが、ダンの頼みじゃ仕方ない。どんな事件だか興味はねぇが、簡単な仕事だ。車に乗せて15分もあれば片が付く。さっさと送り届けて家で一杯やろう。さぁ、乗りな。お前を裁判所に送ってやるぜ。おっと、酒を買い忘れた。そこの酒屋で一本買ってくか。ここで、お前は待ってろ…。
(cv野沢那智)

ブルース・ウィリス主演の年老いた「警官」が、16区画の「限定空間」で、「不運」にも「事件に巻き込まれる」作品と聞けば、それはもう『ダイ・ハード』だ。『〜ラスト・デイ』よりダイハード!ジャック・モーズリーは年老いたジョン・マクレーンだ!
『〜1』でナカトミビル『〜2』でダレス空港『〜3』でマンハッタン島と、限定空間で描いて来たシリーズが、その法則に破綻をきたした『〜4.0』の公開前に発表された映画である。スケールの大きさなど問題ではない。舞台を16区画という空港よりも小さな限定空間で展開させる事で、細かなディティールを表現している。不運な男ジョン・マクレーンが幸せな家庭だと?そいつは可笑しいぜ!昔の栄光にすがりながら、ショットガン抱えてロッキング・チェアか、脚を引きずり酒浸りの毎日こそ、不運な男の晩年に相応しい。それが美学だ。

全ての過去は、ジャックが酒屋から出た、その時に説明されている。車から証人を誘拐しようとしている悪漢を目撃し、銃声が響いて酒ビンが割れるシーンだ。
もう一度言おう。
持っていた酒ビンを手離して銃を抜き、狙いを定めて銃を撃ち、犯人が撃たれてから、地面に落ちた酒ビンが割れるのである。なんという早撃ち!全ては酒びんが落下している間に起こる。かつての凄腕警官だった過去をこの一瞬で表現しているのだ。
この映画では、年齢を重ねたブルース・ウィリスでなければならないシーンが、ここにある。今の彼でなければ成立しない枯れた味と、その説得力。
アクションスターとしての地位を築き、二枚目俳優として浮名を流した彼だが、老いてますます輝きを増したスター性がこのシーンに集約されている。このシーンがあるだけで、この映画は傑作だと言えよう。この映画があるからこそ『RED』シリーズに通ずるのである。
また、証人としてのモス・デフの存在感も素晴らしい。強がっていない黒人という、ハリウッドでも希少な逸材だ。不可思議な魅力が彼にはある。小気味良いセリフも心地いい。彼とのバディ映画としての味も楽しめる。
黒人俳優とのバディは『〜3』のサミュエル・L・ジャクソンを彷彿とさせ、個人的には『〜ラスト・デイ』はもとより『〜4.0』よりも『ダイ・ハード』だと思った。