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007/ サンダーボール作戦 4KレストアのStroszekのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

NATO所有の原爆を奪ったスペクターが、欧米を脅迫し大金をゆすり取ろうとする。ボンドは00課の一員として原爆投下を阻止するためのサンダーボール作戦にあたる。

水中シーンとガスでの毒殺が多い映画。サメも大活躍。舞台はバハマの首都ナッソー。

ボンドがブヴァール大佐を暗殺するシークエンスから始まる。大佐はスペクターのNo. 6だった。

スペクターの隠れ蓑の組織名が「国外亡命者援助協会」となっている。

スペクター構成員が、指揮官の影武者を使って強奪したNATOの原爆搭載機を海底に着陸させてから、藻を散りばめた網で機体を覆い隠すシーンを、比較的長い時間をかけて描いている(途中で謝礼の増額を要求したメンバーを始末する流れを挟みながら)。水中での困難な撮影だ。こういう場面を丁寧にやられると「作戦」感がグッと増す。とてもいい。

スペクターは「作戦で使うNATOの指揮官の影武者の人選を誤ったから」暗殺されるような、非情な組織である。スペクター構成員のフィオナ・ヴォルべが暗殺対象を殺すときバイクで飛ばしてやって来るのでライダースーツを着ているのだが、スタントマンの体型が明らかに男性のものなのには興醒めした。

構成員が番号で呼ばれるスペクターと同じように、00課にも人が9人くらいいることが明らかになる(ボンド以外の00課員は一瞬しか映されない)。 

サンダーボール作戦の会議を開始する際に、紙の封をされた資料をボンドが慣れた手つきで、手のひらの側面で開ける。仕事のプロフェッショナルを扱う映画では、こういうディティールこそ大事だ。

カジノの席でスペクターの幹部と遭遇しバカラで対決する際に、"Your specter against mine"(「あなたの亡霊と私の亡霊の対決だ」)と言うのが秀逸。この時点では彼がスペクターのことを知っているかどうかは不明。

アメリカのCIAエージェントでボンドの協力者フィリックス・ライターは『ドクター・ノオ』、『ゴールドフィンガー』と本作で出てきてるが、一作ごと、あるいは監督ごとに俳優が違うと思う(未確認)。本作のライターはかなり原作のイメージに近い。

NATO機が奪われてから3日後くらいにボンドが機の場所を特定する。そのときに搭乗していたパイロットたちも映されるのだが、3日海底に沈んでいたとは思えないほど遺体が綺麗である。娯楽映画だからあまりリアリズム路線になれないのは分かるが、少し興醒めである。

ボンドはQから「絶対に漏れない放射性物質のカプセル」を貰ってそれを位置情報特定装置として使う(ガイガーカウンターで特定する)。健康リスクが高すぎる装置を開発し使っているので、諜報員の命は二の次ということなのかもしれない。しかし、放射能の万能感、放射能に寄せる絶対的信頼が凄いシリーズだ。核開発競争の時代の産物という感じ。

巨大甲殻類や巨大タコ、ラスボスのサメが周りにいる中での、スペクター側とCIA・MI6側の水中戦はルックがかなり良かった。

ボンド映画の女性描写は今回もかなり酷い。

ボンドが保養施設で敵に背筋伸ばし機械を操作され酷い目に遭う。機械の不調を自分のせいだと勘違いした施設付きの看護士に「上司に言いつけないで」と言われ、彼女の落ち度ではないのに「君の態度次第だな」と言ってトルコ風呂でのセックスに応じさせるのは「弱みを握った脅迫では?」と思った。しかし看護士自身も割と満更でもない表情でそれに応じる。少年誌等の「ラッキースケベ」の原型はこういうところにあるのかと思った。

自分のホテルの部屋で待ち構えていたラルゴの部下フィオナを、ラルゴと同じ指輪を付けていたことから怪しいと疑いながら据え膳はいただくし(「祖国のための勤労奉仕さ」と言っていた)。「ボンドに抱かれた女は天国の快楽に溺れて改心し、正義に目覚めると言われているけど、神通力を失ったわね。」とまで有名なボンドの性豪ぶりがフィオナにより明かされるが、そんなに世間に知られていて海外秘密諜報員の仕事が成り立つのだろうか。行く先々で本名を名乗ってるし。(フィオナの発言は、前作でのプッシー・ガロアの改心を踏まえていると思われる。)

トム・ジョーンズが歌う本作の主題歌"Thunderball"では、"Any woman he wants, he'll get."みたいな歌詞もあるので、映画のボンドは割とカジュアルなセックスを楽しむ設定なのだと思う。原作のボンドはあまり恋愛が成就しないので、このキャラクター造形は翻案なのだろう。

その一方で、CIAエージェントのポーラが秘密を守るために青酸カリを飲んで自死したり、ボンドがフィオナの身体を盾に銃弾から逃れたりと、女性の無慈悲な死を描いてもいる(数時間前に同衾したのに!)。そこだけハードボイルド。

ショーン・コネリー版は四作目だが、原作のグルメで好みにうるさいところはあまり描かれていない。

原作ではパブリックスクールで教育を受けた典型的な英国紳士という感じだが、映画のボンドはケルト系の野性味溢れる感じがある(コネリーはスコットランド出身)。「黒髪の前髪を一筋額に垂らす」点で、原作との一致を試みている節がある。

リーフレットによると、ボンド・シリーズが当たったのには、先行するヒッチコックの『北北西に進路を取れ』の影響があるらしい。
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