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アメリカン・フィクションの一人旅のレビュー・感想・評価

アメリカン・フィクション(2023年製作の映画)
5.0
コード・ジェファーソン監督作。

アメリカの作家:パーシバル・エベレットによる2001年発表の小説「Erasure」を本作が監督デビューとなるコード・ジェファーソンが映像化した風刺コメディで、第96回アカデミー賞では作品賞を逃したものの見事に脚色賞を受賞しました。

スランプに陥っているインテリ系の黒人作家が、立て続けに起きた家族の不幸もあって、半ばヤケクソ気味に書いたステレオタイプな黒人小説が予想に反して大ウケしてしまい、さらには映画化も決まって困惑していく…という社会風刺コメディで、自分が大嫌いな典型的な黒人小説をわざと執筆したことで富と名声を得ていくインテリ作家の葛藤をブラックユーモア満載に映し出しています。

文学や映画等での黒人の扱われ方に疑問を投げかけた社会風刺コメディで、貧困・暴力・麻薬・人種差別といった黒人の悲惨な境遇ばかりが消耗品のように取り沙汰され、そうした風潮が無意識のうちに黒人のステレオタイプを形成している事実に切り込んでいます。映画でも黒人社会を扱った作品は数多くあり、そうした作品が高い評価を得ることも多いですが、黒人全員が映画で描かれるような人生を送っているわけではないことも事実です。本作の主人公も、家族に医者が多いインテリ層で、映画で頻繁に描かれてきた悲惨な境遇の黒人像とは異なる生き方をしています。身内の病死や母親のアルツハイマーの発症といった悲しい現実にも直面しますが、それは黒人だけでなく白人たちにも起こり得る普遍的な出来事に過ぎず、それにも関わらず、映画で描かれる黒人はいつも貧困や暴力、差別の犠牲になっている…という現実との矛盾を指摘しています。

ある意味スパイク・リー等のステレオタイプに黒人社会を描いてきた作家に真っ向から喧嘩を売ったとも言える気鋭の社会風刺コメディで、主演のジェフリー・ライトが白人の求めるステレオタイプな黒人像を致し方なく装う主人公を妙演しています。
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