みや

アメリカン・フィクションのみやのレビュー・感想・評価

アメリカン・フィクション(2023年製作の映画)
4.5
自分としてはかなり面白かった。
主人公のモンクの身内は医者だらけで、自身も文学博士。
父親の不倫と自死、母親のアルツハイマー、姉の離婚と突然死、兄も離婚経験者で同性愛者で薬物依存で、しかも、兄と姉からは、「父から愛されていなかった」と告白され、母は兄の性的指向を受け入れられない。そうした諸々のことから家族とは疎遠。
これら、「アメリカの現代社会のリアルな問題」のデパートの様なモンクなのに、世間からは「黒人」という属性のみでカテゴライズされ、自分の問題意識には目を向けてもらえない。
そんな、自分自身の「リアル」とはかけ離れた、「白人が考える黒人の苦悩の吐露」を期待されているバカバカしさが嫌になって、あえて自分にとって全くの「フィクション」を、ことさら強調して描いたところ、世間一般はそのくだらなさを笑い飛ばすどころか、「リアルだ」と絶賛の嵐…。
理解者だと思っていた自著の愛読者である弁護士の彼女も、このフィクションを評価していたことで関係が悪くなるが、母のアルツハイマーの治療費の関係で、本の売り上げや映画化で得る費用は手放せないため、本当のことを打ち明けられない。
そうした「生身の彼自身の苦悩の重さ」に対して、タクシーの乗車拒否や、「多様性への配慮」という名目での審査員の依頼など、「黒人という属性を理由にされる煩わしさ」が対比的に示される。

とにかく、いかに世間一般のステレオタイプな偏見がトンチンカンであるか、そうした「アメリカの白人たちの文脈の上に成り立ったフィクションのバカバカしさのリアル」を、見事に描いた作品。

ラストなど、この映画作品自体もメタ的にフィクションとして示しつつ、主人公のしたたかな一面を見せて終わる辺りも、クールだった。

セロニアスというファーストネームだから、みんなに「モンク」って呼ばれてるという設定とか、オダギリジョーみたいな映画監督のイカれ具合とか、アジア系の助監督が理不尽な扱いをされるところとか、きっと全部は拾いきれていないけれど、隅々までよく考えられていることが伝わってくるし、コメディとしてかなり上質な一本だと思う。
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