豚肉丸

世界の終わりにはあまり期待しないでの豚肉丸のレビュー・感想・評価

4.8
交通安全ビデオ制作のために女性スタッフが奔走するお話

大傑作!
過労の女性スタッフがキャスト集めに奔走し、実際に撮影するまでの過程という「何でもない」ようなことがラドゥ・ジュデ監督の自由奔放な演出とストーリーテリングによって観たこともないような映画になっていて滅茶苦茶面白い。
度々劇中で挿入されるエフェクト加工を施したTiktok自撮り動画の中で登場する「ボビツァ」のキャラクターが主人公の分身として表象される。その「ボビツァ」は性別すら含めて主人公と対比した毒舌キャラクターとして成り立っており、主人公のフラストレーションを解消する手段として映画内でTiktokを用いてその様子を描くから面白い。スマートフォンを通じて誰でも簡単にできる男性性の発露。
クラシック映画の挿入、度々挟まる「運転」動作の反復、突然無音で映される事故によって亡くなった人々の墓。そして第二部の撮影パート。映画全体が映画業界への皮肉、ひいては過重労働を課す労働環境そのもの(そして問題のある社会構造よりも被害者本人の責任を優先する社会)に目を向けており、新しい映像表現の実験を映画内で行いながらも普遍的かつ重要なメッセージを無視できないぐらいの威力で突きつけてくる。『アンラッキー・セックス』や『野蛮人として〜』でもそうだけど、ラドゥ・ジュデ監督は魅力的な映像表現とストーリーテリングで重要な問題提起を私達に投げかけてくる。

演劇公演、保護者会、と言ったように本作でも第二部でこれまで準備してきた交通安全ビデオの「撮影」に移るが、その場面の厭さが本当に素晴らしい。

ラドゥ・ジュデ監督の新作というだけでも期待値が爆上がりしてしまうが滅茶苦茶面白かった!日本語字幕付きで見返したいので日本での上映に期待...!
豚肉丸

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