KnightsofOdessa

エアのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

エア(2023年製作の映画)
4.0
[]

アレクセイ・ゲルマン・ジュニア長編七作目。1942年春にレニングラード近郊の小さい前哨飛行基地に配属された女性兵士たちの物語。女性パイロットを蔑視して参戦に反対する男性兵士たちも多くいるが、損耗が激しく背に腹は代えられない。そうして彼女たちも最前線に立たされ、ベテランも新人も区別なく次々と死んでいく。まさしく戦闘機パイロット版『朝焼けは静かなれど』だ。あまりにも淡々と仲間たちが減っていくので、上官すら"部下が死ぬことに慣れてしまった、名前すら覚えられない(速さで亡くなっていく)"と言っていた。そして、あまりにもあっさりと、あまりにもさらりと時間が過ぎていく。戦闘シーンすら出撃しギリギリ勝って帰ってくるという繰り返しによってその単調さを強調している。また、彼女たち個人個人の物語には興味がなさそうで、女性兵士全体の集合記憶のような展開なので、突然挿入される日常風景や一応の主人公となるジェーニャの背景すらある意味で一般化されていて(その意味で彼女だから生き延びたのではなく生き延びた彼女を主人公にした感がある)、攻撃してくださいと言わんばかりに荒野に展開された飛行場みたいなロケーションもゲルマン・ジュニアの好みを超えた心象風景として成立していた。ドラマチックにすることを避け、生々しさからは距離を置いて、観客を安易に戦場に置くことを拒絶しながら、戦った女性兵士たちに思いを馳せ、"彼女たちを忘れない"という『朝焼けは静かなれど』のテーマを繰り返すことに重きを置いているのだ。素晴らしい作品と思うが、この時期のロシアで巨大資本を投じて作られた戦争映画であるという事実は変えられない。戦争について肯定的ではないが明確に否定的でもなく(まぁ国内でそんな映画は撮れないのだが)、その曖昧さを歴史物だからの一点になすりつけている感じはする。李下に冠を正さずというか、ナチスと戦った女性兵士たちに思いを馳せるのは必要だが、それって今言う必要ある?と。
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