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無名のatsushiのレビュー・感想・評価

無名(2023年製作の映画)
3.9
トニー・レオンが上海語を喋っている。ジャンルは、どちらかというと韓国が得意とする”政治ノワール”。ルックは、色のない『花様年華』。

タランティーノを敬愛する監督チェン・アル。今作では、監督、脚本、編集、主題歌の作詞までもを卒なくこなし、その全てにタランティーノ味を感じさせる。そもそも、クエンティン・タランティーノは「監督のできる脚本家」だと思っているくらい、私は彼を脚本家として見ている節があるが、そんなタランティーノは自身の脚本執筆時に既に、その場面でかける音楽の候補を書き込んでいるというのは有名な話。個人的にこれはタランティーノ自身の”製作の全てをコントロールしたい”という欲望でもあるように感じる。チェン・アルによる主題歌の作詞にしても同じ意図を感じてしまう。そして、今作の特筆すべき点はやはり複雑な時系列。チェン・アルは時系列順の脚本を作成したあと、撮影時に編集点を設定し、編集で初めて時系列を複雑な順番に組み替えていったという。ここで『パルプ・フィクション』を安直に想起してしまう自分も恥ずかしいが、『パルプ・フィクション』の時系列は誤解を恐れず言えば、順番に意味はなく、"時系列を組み替えていること"自体に意味があると思っている。対して今作の時系列組み替えは、物語のカタルシスを最大化するように計算された順番。順番に意味がある。ここは大きな違いだろう。

2024/05/11 1回目

2024/05/12 2回目 ヒューマントラストシネマ渋谷
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