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ブルー・ウインド・ブローズのgenarowlandsのレビュー・感想・評価

3.8
内田裕也、也哉子の親子出演に惹かれて鑑賞。二人のシーンは一場面だけで、佐渡島を舞台に行方不明の夫を子供たちと待ち続ける役の也哉子さんと、裕也氏は娘と父役でした。

曇天と吠えるような荒海の海鳴り、閉塞感と寂寥感、初めて知る佐渡の光景は、あまりに別世界で地の果てをイメージするほど。

よくぞ探したと思うような寂しい入江の数軒の集落に、そのはるか上空には小さな入江を覆うように近代的な巨大な橋が架かり、ここではないどこか外の世界へ誘っているかのようです。

父を待つ兄の青とまだ幼い妹は、橋にバスが見えると、バスの折り返し広場で乗客に父の姿を探します。かつてバスはこの世界の果てとまだ見ぬ世界をつなぐ希望でした。

過疎化の進む地域には子どもたちは少なく、青はどこからか転校してきた不思議な少女と親しくなるのですが…

この寂寥感と閉塞感、「海炭市叙景」で感じたものと同じです。現代のネオ・レアリズモともいえ、貧しさの前に人が減っていく。出て行く人はいるが帰ってくる人はいない。来る人は逃げてきた人。人気のない荒涼とした景色だけが広がっています。

子どもたちを見守ってきた、学校の桜が希望の象徴にならない不気味さがインパクト大でした。老いて、たくさんの支柱でなんとか立っている満身創痍の桜の巨木。花をたくさんつけられず、新しい生徒に希望を与えることができない。

この地から出ると、その先には何が待っているのか。青が見る夢は現実なのか、悪い夢のような現実を生きる少女はどこへ行くのか。

終始重苦しく、也哉子さんの何事にも動じない安定感がバランスを取っています。そのくらい一人で背負っていました。

文学的で私小説を味わうようにその地の空気を感じられました。
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