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ノスタルジア 4K修復版のAtoruのレビュー・感想・評価

ノスタルジア 4K修復版(1983年製作の映画)
5.0
2月 @Bunkamuraル・シネマ

美しい時間芸術。
足音や水滴の音が心地良く、終始耳を澄まして聴いていた。

字幕翻訳は詩人/作家の池澤夏樹。
詩の世界から映画に入ったテオ・アンゲロプロス作品を担当していた彼が、タルコフスキーのような詩を芸術の最上位に置いた監督を担当し、池澤氏以外にこのような映画の字幕翻訳の適任者はいないのかもと改めて思った。
自分は彼の翻訳のアンゲロプロス「永遠と一日」もとても好きだ。

『知力でロシアは理解できない。
並の物差しでは測ることができない。
ロシアには独特の姿かたちがあるからだ-。
ロシアはただ信じることができるだけだ』
フョードル・イヴァーノヴィッチ・チュッチェフ(1803~1873)

大学生の時に東京都美術館で開催されていた『国立ロシア美術館展』に行った。その時に買った図録に書かれていた、この19世紀の詩人の言葉を思い出した。
"銀の世紀"と呼ばれる、ロシア国内の芸術が頂点に達した時代(19世紀末から20世紀初頭)があった。リアリズムを基調とする移動派などの作品が展示されていた絵画展だった。
タルコフスキーは映画を通じて、祖国の芸術家達の歴史に連なろうとした人だったのかもしれないと、この絵画のような映画を観て思った。

イタリアのトスカーナ地方へ訪れたアンドレイが醸し出す異邦人性と孤独、神聖さや普遍性に近づきたいという欲求、詩的な映像。古い教会の中を歩く余所者の彼の足音。
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