umisodachi

人生って、素晴らしい/Viva La Vidaのumisodachiのレビュー・感想・評価

4.2
腎臓病を患い、週3日の人工透析を必要とするリンミン。暗い日々の中で思わず上げてしまった動画を見て、リュトという変わり者の若者が連絡をしてきたことから、彼女の日々が大きく変わり始める。わけがわからないリュトの言動に振り回されるリンミンだったが、実はリュトも悪性脳腫瘍を患っていて……。

難病同士の恋愛映画というと、ウェットで泣かせにくる作品を想像するのではないだろうか?腎臓病と人工透析の詳細な説明から始まる本作は、そういったいわゆる「病気もの」とは一線を画したつくりになっていた。

20代半ばで一人暮らしをしているリンミンはいつもどこか不機嫌そうで、カッとなりやすい。週に3日数時間も病院のベッドに拘束されて人工透析を受けないと生きていけない身体を抱え、大好きだった旅行ガイドの仕事を続けることもできず(その代わり旅行会社のライターをしている)、いつ来るかわからないドナー発見の連絡を待つだけの日々。リンミンを演じるリー・ゲンジーの、常に不機嫌そうだけれど笑うと可愛い……でもどこまでも普通っぽいというキャラクター造形が良い。すぐにキレるのにわざとらしくないんだよなあ。

そして、さらに素晴らしいのがリュト役のポン・ユーチャン。本気でヤバいかどうかギリギリのラインのテンションで登場するのだが、そこからラストまでのきめ細かい演技のグラデーションが驚愕の高レベル。ふと見せる不安気な表情や、ハイテンションなのにどこか諦めている雰囲気など、繊細な表現を見事に達成していて驚いた。

そんなふたりが繰り広げる恋愛模様はもちろん一筋縄ではいかず、乱高下を繰り返すわけだが、難病ものであるにも関わらず悲壮感を感じさせない演出が見事。メリハリのある喜怒哀楽、深みのあるサブキャラの設定、2人の芝居の中に時折展開される広い画の賑やかなシーン、やりすぎない程度に巧みに張られたセリフ上の伏線と、達人レベルに練られた構成に舌を巻いた。

なんといっても、「さあ、ここで泣いて」というシーンが皆無だという潔さ。いや、厳密にいえば誰もが泣くであろうシーンは用意されているのだが、それは「病気もの」にありがちなシーンではないのだ。明るく、楽しく、力強く。難病ものであるにも関わらず、スクリーンからは常にエネルギーを感じた。

一方で病気そのものには極めて真摯に向き合っていて、人工透析とはどういうものなのか、ドナーの現実、脳腫瘍についてなど、できる限り詳しく描写しているのも好印象。あくまでもエンタメでありながらも、病気についての知識もしっかり伝えようという意志が感じられた。

とにかく、今すぐにでも邦画でリメイクしてほしい。リュト役は仲野太賀か渡辺大知がピッタリだと思うものの、リンミン役の適役が思いつかないんだよなあ。あと、私が一番好きだった即席披露宴のシーンだけは邦画だと再現しづらいから(良い意味でとても中国らしい展開だったので)、そこはちょっと工夫していただいて。誰か―!期待してまーす!

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