ひでG

午後の遺言状のひでGのレビュー・感想・評価

午後の遺言状(1995年製作の映画)
3.9
新藤兼人監督の著作「愛妻記」を読んでいたので、実際の撮影の様子を思い浮かべながら観ることができた。

ご存知だと思うが、新藤兼人監督、
大手映画会社に属しないで、独自のテーマを追求してきた独立系映画作家のさきがけ的存在。

100歳で逝く直前まで映画作家として第一線でメガホンを取った巨匠中の巨匠。

監督と主演女優という関係から愛人関係になり、60歳を過ぎてから妻と離婚して、結ばれた乙羽信子さんとの関係も有名である。

本作は、その乙羽信子さんの遺作。
この撮影時には、末期ガンであった。

著書「愛妻記」には、その壮絶な現実のドラマが記されている。

立っていることもできないくらいの病状の中で、カメラの前ではシャキッとして、
まるで別人のように変わっていく乙羽さん(新藤監督は、こう呼んでいたようだ)

穏やかな表情が、ある事柄を思い出して
一変するスイッチのオンオフを体現できる見事な集大成の演技!

それをカメラを通して、見つめる夫であり、監督である新藤兼人さん。

二人は、映画を作ると言う仕事によって
永遠に結ばれたのだろう。

映画制作の神々しさをこの本から感じ、
それを実際のフィルムで追体験できた。

さて、その実際の映画だが、
上記のような壮絶なエピソードをどうしてもオーバーラップさせてしまう(読んだ直後ということもあり)

なので、ブラスアファの部分を差し引くべきなのか、どうか、自分にはよく分からないが、、

もう一人の主人公、
ずっと舞台に、芝居に生き続けてきた
杉村春子演じる老女優。

これがまた見事な演技だ!

どこからか芝居か、どこからが素なのかが
きっと本人にも分からない人物。

乙羽さん演じる別荘の管理を任されている地元(長野県です!)の老女との関係

この二人の掛け合いや関係性の変化が最大の見せ場。

二人の名女優の時にはバトル
時には融合が見事です。

最初は、従順な女中さんと思っていた乙羽さんが、老女優に一撃を食らわせる。


ただ、その他のシーン、
ボケてしまった老夫婦のエピソードは
個人的にとても身につまされるが、
正直、二人の老女の関係性との関係、
という点では、ちょっとしっくり行ってないような感じもしたかな。

監督さんは、著書の中で、「笑うシーン」と評していたが、強盗のエピソードは
緊張感に水を刺したのかな、、、

ただ、ラストの一撃はまたまた素晴らしい!

二人の老いた女の、女としての生き方、
大切にしてきたもの、などがシンクロしていく、カッキィーン!と快音が長野の緑に轟くようなラストだった。

ガンは辛く、愛夫との別れは辛かっただろうが、
映画女優人生としては、
これ以上のラストシーンはないのではないかな。


乙羽さん、監督!(乙羽さんは結婚してもそう呼んでいたらしい)

永遠に、、
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