Omizu

わが道のOmizuのレビュー・感想・評価

わが道(1974年製作の映画)
4.7
【1974年キネマ旬報日本映画ベストテン 第6位】
青森出身の出稼ぎ労働者、川村由松が行き倒れ、身元不明人として勝手に医大の解剖実験材料として扱われたという衝撃の事件の裁判記録『ある告発――出稼ぎ裁判の記録』(佐藤不器、風見透編著)の映画化作品。

映画化にあたり、原作者の佐藤が映画製作委員会を組織し、近代映画協会、川村セノさんを守る会、青法協弁護士学者合同部会などが協力した。

素晴らしい作品だった。夫が出稼ぎに行ったまま身元不明者として扱われ解剖までされてしまい、ようやく遺体を確認したときには見る影もなくなっていたという話だけだとひたすら悲惨になりがち。しかし新藤兼人は社会派監督として誠実に、厳しくこの題材に取り組んでいる。

本人が身につけていた財布にちゃんと勤め先、故郷の住所があり、運ばれてきたときにはまだ名前を言っていたのにも関わらず、公的機関の怠慢により解剖されてしまったというのはヒドすぎる。

最初に運んだ救急隊員、個人経営の医者は責任ないよ。その後の役所、警察がヒドすぎた。問い合わせても責任はないとばかりに追い返す始末。

そんな扱いを受けた芳造の妻、ミノは徹底的に闘う。事件の悲惨さ、夫婦愛など甘く感傷的に描くのではなく、「人として夫を扱ってほしかった」という一心で闘う女性としてミノを描くのが非常に誠実だった。

裁判に勝っても開放的には決してならない。隣に住む水商売の女が酒に酔って「バンザーイ!」とだけ叫ぶ。ミノは「あの人はわたしのものだ」と夫の墓を守ることを改めて決意する。上品で上手い演出だ。

新藤兼人はやはりもっと世界に知られるべき存在だ。社会派作品としても、一人の女性が毅然と生きる女性映画としても一級の傑作。
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