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ラヴ・ストリームスのmochiのレビュー・感想・評価

ラヴ・ストリームス(1983年製作の映画)
3.7
これまた難しい…。ジョン・カサヴェテスは「オープニング・ナイト」「グロリア」に続いて3作品目だが、この作品が圧倒的に難しい。本作を見るに、カサヴェテスは結構なロマンチストなのかな。姉と弟の交流を通じて愛というものを描こうというのはとっても野心的だと思う。愛を信じすぎているがゆえに、愛に対して恐れを抱く女と、愛を信じていないがゆえに、愛に対して奔放であろうとする男の物語であり、この2人のやりとりにこそ最大の見どころがある。4人で電話で会話するシーン、およびそのあとの2人の言い争いのシーンは素晴らしい。これ以上姉が傷つかないように、愛の不在を解く弟と、愛の存在を信じ、向き合おうとしない弟を糾弾する姉の関係は大変面白い。
出てくる登場人物の多くに子供がいることもまた面白い。子供は配偶者とは別に愛情を向ける存在である。弟は子供を、1人の大人と同じように扱う。彼の息子に対する態度や、秘書の娘を友達と呼ぶ点に、この事実が現れている。他方で、そのように接することで、大人と子供の違いを逆説的に子供に伝える、という帰結がもたらされている。他方で、姉は子供に対して異常な愛情を向け、大人に向けるのとは異なる過度な愛情を向けている。彼は前の夫を過度に愛しているが、その子供もまた過度に愛しているのである。これは、人生における愛のかたちが、子供という存在によって大きく変容して行くこと、またその変容のあり方が全く一様ではないことの象徴である。姉の見る夢の中で、前夫が妻に、自身と子供のどちらを愛しているか聞いているように見えるシーンがあるが、これはその象徴である。
弟は姉に、愛における秘密は打ち明けなければ死ぬと説く。そのまえにみた夢を見るが、その夢はユーモアで前の夫と子供を笑わそうとする彼女である。ユーモアは自己の秘密を隠す手段である。一方その後に見た夢では、彼女自身の愛に対する感情が語られる。もっとも、残りの2人の感情は本物かは全くわからないのだが。そして姉は去っていく。一方で、弟は姉に本当に愛しているのは姉だけだと説く。これは彼が子供に述べた発言と矛盾する仕方で述べられている。つまりこれは、ある意味で、彼自身の秘密である。彼自身は女性ではないが、やはり秘密を打ち明けなければその部分は死ぬと感じたのである。しかし、姉は去っていく。この結末においては、誰の愛も成就していない。姉はひどく自己中心的な愛の注ぎ方をする。別の考察サイトでも書かれていたが、動物の放置や荷物についての一連の扱いは、このことの証左である。弟は、ひどくペシミスティックに愛と向き合う。2人とも愛を恐れているからこそ、このような態度をとっている。姉と弟は果たして変わったのか?これはわからない。姉は自身の秘密を打ち明けた…少なくとも彼女の中では。だから、この点では変わっているかもしれない。しかし、彼女の自己中心的な愛情は変わらないかも知れない。弟もまた、自身の秘密を打ち明けた。しかし、その愛は成就しなかった…また今度も。だから、彼のペシミズムは変わらないかもしれない。安直な結論が出ないからこそ、こういう映画はいいものだと思う!流れには抑揚があるが、その流れを一様に描写するのは難しい。だからこその「ラヴ・ストリームス」なのだろう。姉の述べているように、絶えず愛情がある、というのではなくて、絶えず愛についての事柄に巻き込まれざるをえない、といういみで。
夢の中で歌うのちょっと笑ってしまった。劇的にしようとし過ぎかな。あと、前妻の子供と会う、というのだけで一本撮れるくらいのテーマだと思うけど、こういうテーマを前面に押し出さず、微妙な仕方で中断させる手法はかなり好き。
「人生は自殺と離婚と子供を殴ることの連続だ」かっこいい〜
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