レオピン

戦争と人間 第二部 愛と悲しみの山河のレオピンのレビュー・感想・評価

3.9
第二部は満州国建国から日中戦争に至るまで
冒頭に第一部解説があり、タイトルまでに昭和7年(1932)から10年(1935)までの出来事がざっと紹介される。

昭和7年 満州国建国、五・一五事件、尾崎事件 昭和8年 ヒトラー内閣成立、国連を脱退、滝川事件、神兵隊事件、日本共産党弾圧 昭和9年 満州国帝政へ、士官学校事件 昭和10年 天皇機関説問題


まずは特高刑事の取り調べ。一部に出てきた画家の灰山や小説家の陣内が拷問にあっている。特高刑事に内田稔、小説家に南原宏治。普段善人役の多い人と憎らしい悪役の人が逆転。
伍代家次男の俊介(北大路)は灰山の面会に赴くが、拷問取り調べを目撃する。その帰りに兄の元婚約者だった温子に会いに行く。

軍需部門への傾注を訴える長男英介に対し当主の伍代由介は、皇道派も統制派も将官連中の古狸たちが若い連中を利用しておるだけだと喝破。これ以上ない正確さ。また彼らの計画性のなさをも指摘。この洞察にあふれる台詞がすごい

731石井部隊の非人道的鬼畜に特高の拷問もかすむ。華北への進出を企む関東軍は、親日満系新聞社主の暗殺を契機に親日傀儡政権を目指す。(籃衣社のテロ・冀東防共自治政府) やってることはこればっか
伍代の通訳、白の身にふりかかった危機を高畠が救う。立場を超えた友情。義を見てせざるは勇無きなり

満州を訪れた由介と趙大福との会見。会談の帰り道にこぼす由介の軍人批判。金の卵を産む鶏を絞め殺すような真似ばかりする いつの時代の話だろう

柘植大尉(高橋)は特務機関で動いていたが阿片の摘発に力を入れる。まるでシカゴの暗黒街で活躍したネス捜査官のよう。だが伍代産業の阿片密売にぶち当たる。歴史は阿片とは切り離せない

列車の中の相沢中佐。身売りの娘たちや困窮する子供たちといった背景も描かれる。この時気づいたがこの作品は将官たちの顔の日焼けをちゃんと描いている。軍帽のラインがくっきり見える。この日白昼堂々、陸軍軍務局長の永田鉄山は執務室で斬殺された。

俊介に貸していたマルクス本を取り戻しにくる耕平。戦争へ突き進む日本のことに目を向けはじめる順子。

雪山に籠っていた抗日匪賊。意見が割れ、徐在林らは金日成の抗日パルチザンに参加しようと離脱する。直後に敵の部隊を見つける。さっきまで激しく対立した味方の危機に自ら囮となって立ち回る。草木も凍る満州の大地に熱い血潮をほとばしらせた徐在林を描き切って前半を終える。インターミッション

1935(昭和10).6 土肥原・秦徳純協定
1935(昭和10).6 梅津・何応欽協定
1935(昭和10).8 相沢中佐事件
1935(昭和10).11 冀東防共自治政府(委員長に殷汝耕)

後半、年が明けて昭和11年。皇道派青年将校らによる226事件が起きる。学業を放棄し満州へ渡ることにした俊介。
関東軍ではまたしても奉勅命令云々の会話に、石原の立場が逆転したことが分かる。今度は抑える側、つき上げを食らう側に。新たに田中隆吉参謀着任、武藤章ら世代交代。
 
関東軍は華北分離に続いて内蒙古での工作を展開。蒙古の徳王を立てるが綏遠で衝突する。
満州事変以降の動き。彼らは対ソ戦略に基づき、更に西内蒙古、西北への進出を狙っていた。狙いは防共回廊という果てない夢。

耕平は警察に捕まっていた。特高刑事(草薙幸二郎)の手口、実際ああなんだろう。最初敬語で甘い顔を見せいきなり態度を急変させる。お茶を勧めて口をつけた途端に張り倒す。
留置場では拷問を受けた同房の男の熱を冷ますために、壁に手を置き少しでも冷やしてから額に置く、それを何度も繰りかえす。
家族を関東大震災で虐殺された朝鮮人の朴さん 手のひらの上での会話 殺されても死ぬなよ

温子を満州に呼び寄せる俊介だったが、亭主の陰湿な攻撃の前に引き裂かれてしまう。駅で汽車を追いかける。

年末、張学良軍のクーデター、いわゆる西安事件。延安から周恩来が飛んでくる。共産党との一時停戦。ここに革命以来内乱の続いた中国において歴史の歩みは大きく動き始めた。

1936(昭和11).2  二・二六事件
1936(昭和11).11 日独防共協定
1936(昭和11).11 綏遠事件
1936(昭和11).12 西安事件

西安事件をめぐって議論を戦わせている趙兄妹と服部。そこへ悪い知らせが。瑞芳の覚悟。抗日運動で命を落としても構わないと決めたのはあの男のせいだ。もう逃げない。愛する人を救うためと奉天駅で大立ち回りを演じる服部。目の前で連行されようとするのを他人のフリをしなくてはならない。目に涙をためた小巻さん。
日中の男女の愛の傍らで抗日の気運はピークに達する そしてとうとう両軍衝突

1937(昭和12).7.7 盧溝橋事件

第二部は4組の男女を軸に描かれる。人間が本当に生きるというのはどういうことか 命をかけて人を愛する 愛の手前で苦悩し逡巡する男女 俊介と温子、耕平と順子、柘植と由紀子、服部と瑞芳、そして徐在林も。先のことは分からない。ただ目の前の人のために精一杯生きようとする人たち。二組の別れはいずれも駅ホームでの絵になるシーンだった。

由介の滝沢修は戦前、左翼活動のために投獄された
恭介の芦田伸介は満州引き揚げ組 この二人の演技が貴重な重しとなっている。

徐在林の地井武男 大塩雷太の辻萬長 徐は日本の官憲に家族を殺され、徐に警官の父を殺された雷太。二人は狼となったが愛に飢えてもいた。彼らを救えるのは明福(木村夏江)と邦ちゃん(和泉雅子)だけだった。前半部のトリを飾った地井武男の演技は忘れられない。

受験日本史的には、思想弾圧事件、関東軍の華北分離工作、頻発するテロ。そして西安事件。教科書ではただの会談みたいな感じで教わるが、本能寺の変やブリゴジン事件のように叛乱軍としての姿がきちんと描かれていた。ちなみにあそこで蒋介石を捕えた人達はその後みんなきっちり落とし前をつけられている。

それにしても拷問シーンのえげつなさ。臆面なく語る男女の愛。どっちも韓国映画のスパイスだが日本の監督で唯一人韓流エンタメの中に放り込んでも違和感ないのが山本薩夫だな。というわけで、いよいよ泥沼の日中戦争に突入
レオピン

レオピン