マインド亀

サザエさんのマインド亀のレビュー・感想・評価

サザエさん(1956年製作の映画)
4.0
今のサザエさんを形作った意外や意外なクリスマスムービー!

●不勉強なもので、U-NEXTで検索に引っかかるまで、私『サザエさん』にアニメ以前の実写映画版があるとは知りませんでした。人気シリーズで10本も作られたんですね。興味本位に観てみるとこれがなかなか名優揃いのドラマでめちゃくちゃ面白かったです。

●当時人気歌手で知名度の高かった江利チエミの活発な演技が、現在まで続くアニメ版の加藤みどりの抜擢に影響を与えた、という超重要な作品なのです。なので流石に主役のサザエさんは今のアニメ版に馴染んだ我々にはめちゃくちゃしっくりきます。江利チエミは今の伊藤沙莉のような低めのハスキーボイスで、これがまた個性的でハツラツとした印象。めちゃくちゃぴったりです。
あとサザエさんの父親(当時はまだ『波平』という名前は与えられていない)の藤原釜足の見た目の再現度がかなり高く、そして名女優松島トモ子のワカメちゃんもなかなか可愛らしく再現度が高い。
一方で母親(当時はまだ『フネ』という名前は与えられていない)の清川虹子は波平以上に男勝りな母親で、カツオは坊主じゃないし、マスオの小泉博はメガネをかけておらずなかなかのハンサム。極めつけはノリスケが名優仲代達矢でめちゃくちゃ2枚目。こりゃ絶対にモテるでしょうと思える飄々とした性格。アニメ版や原作との違いを楽しめますし、何ならこっちはこっちで全員のキャラクターが立ってて面白かったです。

●ストーリーはノリスケと、サザエの親友のミチコ(タイコではない)との結婚、サザエとマスオの出会いを中心に、確か私の記憶が正しければ原作『別冊サザエさん』にも語られていた雑誌社や探偵社への就職エピソードが挟まれています。それぞれのエピソードは決して独立し過ぎず、脚本として不自然はなく、なかなかに練られた脚本だと思いました。コメディ部分も役者の演技が良すぎて面白い。特に耳が遠いお客様に対応するフネとサザエのエピソードは爆笑しました。また、しっかりと、当時のゲスト芸人枠で、花菱アチャコ、『男はつらいよ』初代おいちゃんの森川信がオモシロ部分を支えてくれます。

●当時の貴重な町並みが見られるのも魅力の一つ。銀座松屋の風景を観るだけで、ああやっぱり『ゴジラ-1.0』なんて作り物だなあと再認識(それは仕方ない。)。

●当時の磯野家は中流家庭ですが、クリスマスパーティもするし、サザエさんもちゃんとキャリアウーマンとして就職をする。この当時としてはその時の「イマドキ」の家庭だったのかもしれません。原作ではサザエさんの社会行動にウーマンリブの影響も見られることから、女性の社会進出を願う長谷川町子さんの意向がしっかりとドラマに反映されているのかな、と思います。
恋愛に関しては「女性は誰でもお嫁さんに憧れる」などとサザエとワカメは語り合うのですが、だからといって親に決められたお見合いというものには興味がない(ノリスケもそうです)。自由恋愛を求める当時の若者の感性が反映されたのでしょうか(原作ではサザエとマスオの結婚はお見合いでした)。

●また、三河屋のサブちゃんと洗濯屋、炭屋、魚屋がダーク・ダックス。江利チエミと圧倒的な歌唱力で、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』の妄想ミュージカルを繰り広げるのですが、もうこれが最高ですね(例える映画がおかしい…)。なんせラストシーンがジングル・ベルの英語詞曲。なかなかにイキで楽しいクリスマスナイト。クリスマスにピッタリのクリスマスムービーとして、イブに家族と鑑賞してみても面白いんじゃないでしょうか。
ともかく、『サザエさん』という国民的作品を紐解くうえで、原作、アニメと並んで重要な作品に違いないと思いますので、まずはこの一作を観ておいて損はない作品です。私もこれからシリーズを徐々に観ていこうと思います。
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