触るなキケン。黒沢清監督の作品は3作目。子犬のようなつぶらな瞳のオダジョーが突然キレる。東京の海底で浮遊する若者たち。行き場のない怒りが東京湾の深海にちり溜まっていく。魂の抜け殻となり、涙も出ない。差し伸べられた手のつかみ方を知らない。触るなキケン。その手を傷つけてしまうから。
オダギリジョー初主演作。浅野忠信がクラゲの最初のオーナー。藤竜也がその父。
ある著名な写真家の写真集を思い出した。東京を写した風景写真。そこには情緒がない。あえて排したと、たしかあとがきだかに書いてあった。だから無機質でもない。都会の近代性もない。物質として、そこに存在しているままに、モノやタテモノがただ在る。圧倒もしないし、猥雑さもない。
ユウジとマモルから見た東京の景色はそんな風に何もかもに情緒がない。息を潜めて存在を消し、環境に自分を慣らしてきた。
タイトルに惑わされた。深海鮫と化してときどき浮上してくる得体のしれない暴力。知りたくもない何か。忘れられた誰か。描き方が秀逸だった。
楽曲は蓮實重彦氏の息子による。
ファッションがアートで、スタイリスト北村道子氏による。