朝田

美味しんぼの朝田のレビュー・感想・評価

美味しんぼ(1996年製作の映画)
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これは素晴らしい!とりあえず原作に思い入れがある自分としては、漫画内の数々のシーンが極めて映画的に実写化されているだけで興奮してしまう。しかし、贔屓目抜きにしても傑作だと思う。台詞ではなく視線のやり取りや手元のカットで語る抑制された演出、そして簡潔な語り口に痺れっ放し。原作にあった心理的な説明の機能を果たすモノローグを排し、作品を核を料理対決ではなく「父」と「子」のドラマである事を見抜いた(実際山岡と雄山が和解した瞬間から原作は失速した)森崎監督のセンス。二人のぎこちない関係性を言語ではなく、交わらない視線同士によって語り、それらが交わって後のドラマを予感させた瞬間にバシっと「美味しんぼ」のタイトルが出るオープニングから一気に心を捕まれる。原作だと料理対決にあたって作戦を練っていく山岡のシーンを結構尺を取って見せるのだが今作では会議のシーンからいきなり山岡があん肝を取りに漁船に乗るカットに切り替わり、僅かなカットで対決本番を迎えているといったようなテンポ感になっている。見せたいものが親子関係だとハッキリしているからこその効率性溢れる語り口。その後の浮浪者とあん肝鍋を囲むシーンも最高。最近の映画だったらここでヒューマニズムを強調するかのように浮浪者の笑顔のアップとか入れそうなものだが、一定の距離を保ってショットを捉えているのがエレガント。ここでも台詞ではなく、山岡と栗田の視線のやり取りで関係性の変化を語っている見事さ。序盤では手元というモチーフは山岡にとって雄山との断絶を語るものだったのが、ラストでは微かな親子間の絆を感じさせるものに変化する演出にも感動する。「父」と「子」の関係というのはPTAやらイーストウッドやら実にアメリカ映画を連想させる題材なので、森崎監督のアメリカンな、簡潔な演出がハマるのも考えてみれば当然か。配役に関しては山岡は普通にハマっているが、栗田を演じるには羽田美智子はちょっとハマっていないのでは?と最初は思った。だが、物語が経過するにつれて栗田そのものに見えていくのだから不思議だ。雄山を原作に寄せることなく素のまま体現する三國連太郎もすごい。山岡と二人で神社の中を歩くカットの表情の素晴らしさは実の親子でなければ生まれなかったと思う。あとメガネかけた同僚のキャスティングの絶妙さとか、富井副部長が結果発表の時一人だけ飯をガッツいている細かさもファンとしてはニヤリとした。本当に傑作でした
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